コウという子供
文字数 1,676文字
僕は、周りの子供からよくバカにされていました。
なぜかというと、いつも荒唐無稽なことばかり言っていたからだと思います。
春島で花が咲くのはどうしてだろう
秋島で葉っぱが赤くなるのはなんでだろう
冬島が暖かくなればいいのに
夏島で氷が食べたい
当たり前のことを疑問に思ったり、ありえない想像を語ったり。
そんな僕のことを、みんなは少し違った目で見ていたようです。
僕は夢見がちな子供だったのでしょう。
学校へあがっても、そんなことばかり言う僕を、母は叱りながらもしょうがないと苦笑し、父は僕の話を熱心に、頷きながら聞いてくれました。
そんな子供だったので、僕は学校に通いながらもそこで自分の研究を追求していきました。
僕の研究は、はじめ大気に漂う季主さま方の力を集めて、何かの動力にできないかということでした。
この世界を覆う結界と、その島を護る季主さまのちからは、とても大きい。それを少し応用して、何かができないか、と思ったのです。
そして、夏の季主さまのちからから熱水ができるとわかった僕は、その熱を使って服の皺を伸ばす道具や、単純に湯を沸かす湯沸かし器などを開発しました。
しかし、熱水は単純に火を使って沸かせますので、季主さまの力をつかわなくても使える道具として商品化もされました。それは、レイファルナスさまの力を使う商品ではなかったので、そのとき許可はとりませんでしたけれど。
商品化されたことで、僕のまわりには僕の話を聞いてくれる研究仲間ができました。
そんな折、僕の母が熱病で倒れました。
夏島の暑さに体力を奪われていき、昼間は寒気がするほど熱が出ても、夕方になると熱が下がり、そのときに外から入ってきたすこしだけ涼しくなった風が心地いいと喜んでいたのです。
一日のうちでたった夕刻だけ、楽になった母にはその風がとても嬉しかったようです。
その後、母は治療のかいなく、亡くなりましたが、そのとき、夏島で涼しい風がでる装置をどうにか作れたら、と思いました。
「それが、この計画の第一歩だったということだね」
「はい、レイファルナスさま。でも、この話を研究仲間にしても、子供時代のように荒唐無稽だと笑われました」
それでも僕は研究仲間をくどいてみました。
夏の季主さまのちからから熱水ができるなら、冬の季主さまのちからからは、きっと冷水ができる。
それは、確信にちかい感覚で、そこから冷風を生み出す装置をつくれないかと思ったのです。
それを順序だてて話をすると理解してくれる研究仲間もいて、その仲間と僕は冷房装置に関する研究を始めました。
そのころには、僕はコウ・サトー博士と呼ばれ、少しだけ名前が知れる研究者になっていました。
僕の研究は人づてに噂になり、冷風と温風を作りだせることが成功すると、夏島の神官である父づてに蒼神官さまにその噂が伝わったのです。
コウは話を締めくくり、ごほっと咳き込んで口を閉じた。
蒼神官と、その後もいろいろと話し合ったのだろう。
そのあとに、私のところへと話があがってきたのだ。
「私の半生はこんな感じだったんです」
「発想の豊かすぎるところが、人に理解されづらい人間だったのだね」
たしかにこの夏を維持する島で冷風を吹かせようという発想はわかないだろう。
でも、暑いときにはやはり涼しさを求めてしまうのが人間だ。
問題は、それを実行するかしないか、だ。
コウは、実行しようとしている。
自然に私は笑顔になって、コウの膝に自分の手をおいた。
「いま、君は、君が夢見た発想を、全力で実現しようとしている。周りには協力してくれる人々がいて、私も応援している。だから、はやく身体を治して、元気になって、計画をすすめていってほしい」
「はい」
コウは物怖じしないキラキラとした目で私を見返した。
その目の奥に、この計画に対する情熱の炎が燃えているのが見える。
コウという男は、この計画をとても大事に思っているのだろう。
そして、その炎が人と違うことにも私は気が付いた。
もう、あと少しの間しか燃えることが出来ないであろうことに。
なぜかというと、いつも荒唐無稽なことばかり言っていたからだと思います。
春島で花が咲くのはどうしてだろう
秋島で葉っぱが赤くなるのはなんでだろう
冬島が暖かくなればいいのに
夏島で氷が食べたい
当たり前のことを疑問に思ったり、ありえない想像を語ったり。
そんな僕のことを、みんなは少し違った目で見ていたようです。
僕は夢見がちな子供だったのでしょう。
学校へあがっても、そんなことばかり言う僕を、母は叱りながらもしょうがないと苦笑し、父は僕の話を熱心に、頷きながら聞いてくれました。
そんな子供だったので、僕は学校に通いながらもそこで自分の研究を追求していきました。
僕の研究は、はじめ大気に漂う季主さま方の力を集めて、何かの動力にできないかということでした。
この世界を覆う結界と、その島を護る季主さまのちからは、とても大きい。それを少し応用して、何かができないか、と思ったのです。
そして、夏の季主さまのちからから熱水ができるとわかった僕は、その熱を使って服の皺を伸ばす道具や、単純に湯を沸かす湯沸かし器などを開発しました。
しかし、熱水は単純に火を使って沸かせますので、季主さまの力をつかわなくても使える道具として商品化もされました。それは、レイファルナスさまの力を使う商品ではなかったので、そのとき許可はとりませんでしたけれど。
商品化されたことで、僕のまわりには僕の話を聞いてくれる研究仲間ができました。
そんな折、僕の母が熱病で倒れました。
夏島の暑さに体力を奪われていき、昼間は寒気がするほど熱が出ても、夕方になると熱が下がり、そのときに外から入ってきたすこしだけ涼しくなった風が心地いいと喜んでいたのです。
一日のうちでたった夕刻だけ、楽になった母にはその風がとても嬉しかったようです。
その後、母は治療のかいなく、亡くなりましたが、そのとき、夏島で涼しい風がでる装置をどうにか作れたら、と思いました。
「それが、この計画の第一歩だったということだね」
「はい、レイファルナスさま。でも、この話を研究仲間にしても、子供時代のように荒唐無稽だと笑われました」
それでも僕は研究仲間をくどいてみました。
夏の季主さまのちからから熱水ができるなら、冬の季主さまのちからからは、きっと冷水ができる。
それは、確信にちかい感覚で、そこから冷風を生み出す装置をつくれないかと思ったのです。
それを順序だてて話をすると理解してくれる研究仲間もいて、その仲間と僕は冷房装置に関する研究を始めました。
そのころには、僕はコウ・サトー博士と呼ばれ、少しだけ名前が知れる研究者になっていました。
僕の研究は人づてに噂になり、冷風と温風を作りだせることが成功すると、夏島の神官である父づてに蒼神官さまにその噂が伝わったのです。
コウは話を締めくくり、ごほっと咳き込んで口を閉じた。
蒼神官と、その後もいろいろと話し合ったのだろう。
そのあとに、私のところへと話があがってきたのだ。
「私の半生はこんな感じだったんです」
「発想の豊かすぎるところが、人に理解されづらい人間だったのだね」
たしかにこの夏を維持する島で冷風を吹かせようという発想はわかないだろう。
でも、暑いときにはやはり涼しさを求めてしまうのが人間だ。
問題は、それを実行するかしないか、だ。
コウは、実行しようとしている。
自然に私は笑顔になって、コウの膝に自分の手をおいた。
「いま、君は、君が夢見た発想を、全力で実現しようとしている。周りには協力してくれる人々がいて、私も応援している。だから、はやく身体を治して、元気になって、計画をすすめていってほしい」
「はい」
コウは物怖じしないキラキラとした目で私を見返した。
その目の奥に、この計画に対する情熱の炎が燃えているのが見える。
コウという男は、この計画をとても大事に思っているのだろう。
そして、その炎が人と違うことにも私は気が付いた。
もう、あと少しの間しか燃えることが出来ないであろうことに。