ジャムの瓶詰め作業
文字数 2,015文字
ジャムは熱いうちにびんづめをするのだそうだ。
次の作業は、まだ熱々のジャムをおたまで掬って煮沸消毒した瓶に詰める。
ジャム造りというのは、なかなか手間がかかるものなのだ。
手早くやってしまわないと、衛生面にも影響がでてくる。
テルナージェ先生がまた一通りの作業の流れを説明し、私たちはそれを聞いて、次の作業を確認した。
「では、はじめますか!」
テルナージェ先生がみんなの顔をみて言うと、その声で私達は一斉に動きだす。
三つの大きな鍋に湯を沸騰するまで湯を沸かす。
そして、沸騰したら瓶を一つずつくぐらせて、煮沸消毒をする。煮沸消毒をしたら、清潔な場所で水分がとんで乾くのを待つ。
びんは三十個ほどあった。
それをすべて煮沸消毒してしまうと、私達はジャムの様子を見る。
鍋の中に入っている橙色のジャムは、黄金色にも見えた。
てらてらと光を反射していて、艶がある。
それを、キリール氏とわたくし、そしておばあちゃんで瓶につめていく。
先の細くなったおたまでジャムを掬って、それを小さなびんに入れていく。
びんに詰めたら、ふたをしていく。
そして、全部を詰め終わったころには、ちょうど夕方になっていた。
テルナージェ先生が、パチンと手を打って、みんなの注目をあつめる。
「では皆さん、もう夕方ですし、パンを用意しましたから夕食がてらジャムをつけて食べてみましょうか」
「やったあ!」
テルナージェ先生の言葉に即返事をしたのは、ジェイだった。
みんなで厨房となりの食堂のテーブルにうつり、中央においてあるバスケットの中に入ったパンを手に取る。
このパンもこの厨房で焼いたのだろうか。
そう聞くと、キリールが今日の朝早く来て焼いたのだという。
パンは香ばしくて、そこにサカの実のジャムをぬって食べると、得も言われぬ美味しさだ。
「自分たちで作ったものを食べるのも、大事なことですからね。遠慮なく食べてくださいね」
テルナージェ先生が言うと、ジェイが調子に乗ってパンをまた手に取った。
それを見た父親のキリールがジェイをまたたしなめる。
「こら、みんなの分を考えて食えよ? お前、大ぐらいなんだから」
「だって、たくさん食べていいって、いま先生が言ってくれたじゃないか」
頬を膨らませて怒るジェイに、キリールはやれやれと肩を落とす。
言っても無駄だと思ったみたいだ。
メリルとおばあちゃんも、にこにことして食べていた。
……こうして見ると、おばあちゃんは何でもないように見える。
背中を丸めておいしそうに小さな口でパンを食べる仕種は、かわいいおばあちゃんと言った感じだ。
けれど、気になるのはメリルのことを常にイリーナと呼んでいることだ。
事情は分からないけれど、テルナージェ先生もいろいろと大変なんだな、と思う。
「イリーナ。おいしいかい」
「うん」
おばあちゃんはやはりメリルをイリーナと呼び、やさしく声をかけた。
返事をしたメリルの頭を撫でると、肩も撫でて頬を指でこすって、頬についたパンくずを取った。
「くすぐったいよ」
「そうかい」
おばあちゃんとメリルは笑いあう。
その様子を、すこし寂し気にテルナージェ先生はみていた。
夕食休憩がおわり、びんに張り紙をはって、ふたに紙をかけると、もうできあがりだ。
その作業を夕食あとにみんなで終わらせた。
全部で三十個あまりのジャムができた。
テルナージェ先生はみんなに出来上がったジャムをひと瓶ずつもたせてくれて、夕食に食べたパンの余ったものももたせてくれた。
いいお土産が出来て、良かった、と思う。
後かたづけをして、椅子に座ると、厨房の窓にはもう夜のとばりがおりていた。
「すっかり遅くなちゃったわね」
星のきらめく空を見上げて、わたくしは独り言をつぶやく。
「今日はジャム作り、どうでしたか?」
テルナージェ先生はわたくしにそう声を掛けると、厨房の向かいの椅子に腰かけた。
「美味しいものができて嬉しかったわ」
「ルファさま、なんだかバタバタしてしまって申し訳ありませんでした」
「いいえ、いいのよ。とても楽しかったし」
楽しかったのは本当だ。
貴重な体験ができたと思う。
「おばあちゃんのこと、ゆるしてやってください」
そう言ってテルナージェ先生は頭を下げる。
「怒ってないし、気分をわるくしたわけでもないわ。心配しなくても平気よ」
「ありがとうございます」
テルナージェ先生は、少し涙をためてわたくしを見た。
「ただ……無粋だとは思うけれど、少しきいてもいいかしら」
「はい」
「イリーナっていうのは、誰のことなのかしら」
ずっと気になっていた。
おばあちゃんは孫のメリルのことをずっとイリーナと呼んでいた。
メリルも承知していた態度だったし、おばあちゃんには言っても分からないのだろう。
イリーナという名前がおばあちゃんにとって大事な名前なのはわかるけれど、メリルが可哀そうに思える。
イリーナとは誰のことだろう。
次の作業は、まだ熱々のジャムをおたまで掬って煮沸消毒した瓶に詰める。
ジャム造りというのは、なかなか手間がかかるものなのだ。
手早くやってしまわないと、衛生面にも影響がでてくる。
テルナージェ先生がまた一通りの作業の流れを説明し、私たちはそれを聞いて、次の作業を確認した。
「では、はじめますか!」
テルナージェ先生がみんなの顔をみて言うと、その声で私達は一斉に動きだす。
三つの大きな鍋に湯を沸騰するまで湯を沸かす。
そして、沸騰したら瓶を一つずつくぐらせて、煮沸消毒をする。煮沸消毒をしたら、清潔な場所で水分がとんで乾くのを待つ。
びんは三十個ほどあった。
それをすべて煮沸消毒してしまうと、私達はジャムの様子を見る。
鍋の中に入っている橙色のジャムは、黄金色にも見えた。
てらてらと光を反射していて、艶がある。
それを、キリール氏とわたくし、そしておばあちゃんで瓶につめていく。
先の細くなったおたまでジャムを掬って、それを小さなびんに入れていく。
びんに詰めたら、ふたをしていく。
そして、全部を詰め終わったころには、ちょうど夕方になっていた。
テルナージェ先生が、パチンと手を打って、みんなの注目をあつめる。
「では皆さん、もう夕方ですし、パンを用意しましたから夕食がてらジャムをつけて食べてみましょうか」
「やったあ!」
テルナージェ先生の言葉に即返事をしたのは、ジェイだった。
みんなで厨房となりの食堂のテーブルにうつり、中央においてあるバスケットの中に入ったパンを手に取る。
このパンもこの厨房で焼いたのだろうか。
そう聞くと、キリールが今日の朝早く来て焼いたのだという。
パンは香ばしくて、そこにサカの実のジャムをぬって食べると、得も言われぬ美味しさだ。
「自分たちで作ったものを食べるのも、大事なことですからね。遠慮なく食べてくださいね」
テルナージェ先生が言うと、ジェイが調子に乗ってパンをまた手に取った。
それを見た父親のキリールがジェイをまたたしなめる。
「こら、みんなの分を考えて食えよ? お前、大ぐらいなんだから」
「だって、たくさん食べていいって、いま先生が言ってくれたじゃないか」
頬を膨らませて怒るジェイに、キリールはやれやれと肩を落とす。
言っても無駄だと思ったみたいだ。
メリルとおばあちゃんも、にこにことして食べていた。
……こうして見ると、おばあちゃんは何でもないように見える。
背中を丸めておいしそうに小さな口でパンを食べる仕種は、かわいいおばあちゃんと言った感じだ。
けれど、気になるのはメリルのことを常にイリーナと呼んでいることだ。
事情は分からないけれど、テルナージェ先生もいろいろと大変なんだな、と思う。
「イリーナ。おいしいかい」
「うん」
おばあちゃんはやはりメリルをイリーナと呼び、やさしく声をかけた。
返事をしたメリルの頭を撫でると、肩も撫でて頬を指でこすって、頬についたパンくずを取った。
「くすぐったいよ」
「そうかい」
おばあちゃんとメリルは笑いあう。
その様子を、すこし寂し気にテルナージェ先生はみていた。
夕食休憩がおわり、びんに張り紙をはって、ふたに紙をかけると、もうできあがりだ。
その作業を夕食あとにみんなで終わらせた。
全部で三十個あまりのジャムができた。
テルナージェ先生はみんなに出来上がったジャムをひと瓶ずつもたせてくれて、夕食に食べたパンの余ったものももたせてくれた。
いいお土産が出来て、良かった、と思う。
後かたづけをして、椅子に座ると、厨房の窓にはもう夜のとばりがおりていた。
「すっかり遅くなちゃったわね」
星のきらめく空を見上げて、わたくしは独り言をつぶやく。
「今日はジャム作り、どうでしたか?」
テルナージェ先生はわたくしにそう声を掛けると、厨房の向かいの椅子に腰かけた。
「美味しいものができて嬉しかったわ」
「ルファさま、なんだかバタバタしてしまって申し訳ありませんでした」
「いいえ、いいのよ。とても楽しかったし」
楽しかったのは本当だ。
貴重な体験ができたと思う。
「おばあちゃんのこと、ゆるしてやってください」
そう言ってテルナージェ先生は頭を下げる。
「怒ってないし、気分をわるくしたわけでもないわ。心配しなくても平気よ」
「ありがとうございます」
テルナージェ先生は、少し涙をためてわたくしを見た。
「ただ……無粋だとは思うけれど、少しきいてもいいかしら」
「はい」
「イリーナっていうのは、誰のことなのかしら」
ずっと気になっていた。
おばあちゃんは孫のメリルのことをずっとイリーナと呼んでいた。
メリルも承知していた態度だったし、おばあちゃんには言っても分からないのだろう。
イリーナという名前がおばあちゃんにとって大事な名前なのはわかるけれど、メリルが可哀そうに思える。
イリーナとは誰のことだろう。