今現在の幸福 後編
文字数 1,846文字
青空がきれいな良く晴れた日だった。
夏主レイファルナスは世界の中心に浮いている主島へと季主の道をつかっておもむいた。
主島でどうしてもしておきたいことがあったからだ。
その際に、大神殿の入口で、ばったりと春主ルファに出会った。
彼女は春島の象徴色である赤を基調としたドレスをまとった赤毛の、とても女性的な季主だ。
「ルファ、この前は大変だったけど、あれから元気にしてた?」
ルファを見て最近に春島でおこった事件を思い出し、彼はルファに聞いた。
心配気に聞いてきた夏主に、春主ルファはにこやかに笑顔をかえす。
「ええ。つい最近の春主祭では、ジャム作りなんてものもしてみて、けっこうくつろいですごしているわ。今の朱神官は大変な思いをしているでしょうけどね」
ルファは現在の朱神官エモアをおもんばかって、苦笑する。
二人は挨拶をして大神殿へ入ると、絵画が飾ってある回廊の左側へ入って、絵をみていくことにした。
左側の通路には、秋と冬の浮島の風景画が飾られている。
その秋島の風景画を見ながらぽつりと夏主レイファルナスは口をひらいた。
「秋島の山岳地帯の絵か……ここではよくゼスが鉱石堀りをしているところだね」
「そうなの? よく知っているわね」
「私は、この世界をまわる旅をするのが趣味だからね。そういえばルファはどんなことが趣味なの? あんまりルファが何かに執着しているところを見たことがないのだけど」
「わたくしは……。しいていえば無趣味、かしら。せいぜい春島の生物の観察が、いいところかしらね。そう考えると、レイとゼスが羨ましく思えるわ」
明確に趣味と言えるものを持っている二人が、ルファには羨ましく思えた。
「でも、ゼスの鉱石堀はわりと危険だと思うよ。ネイスクレファはどんな趣味があっただろう?」
レイファルナスに言われ、ルファは考え込む。
「やっぱり冬島の生物の観察……かしら。以前冬島の生物の話をきいたことがあるけど、氷の海にすごく大きな怪物みたいな生きものがいるようね。春島じゃ、考えられないわ」
春島ではむしろ小さな虫や小鳥などが多い。
大型生物となると、他の浮島の方が圧倒的に多かった。
「それに、ネイスクレファっていえば、いつも思うんだけど髪がすごく綺麗よね……」
ふっと顔をなごませてルファは手を頬にあてた。
「髪の毛?」
レイファルナスが不思議そうに聞くと、ルファは続ける。
「ええ。レイのその飴色の髪も素敵だけど、ネイスクレファの銀色の滝みたいな髪の毛、じつはわたくしのあこがれなの」
「そ、そうなんだ。ルファのその赤毛もいいと思うけどね」
ここら辺のじつに女性らしい心の機微は、レイファルナスにはイマイチ分かりづらいことだった。
実際、ルファの波打つ赤毛はすごく美しい。
なのに、何故それに満足できないのか。
それが女性らしい性質をもった春主らしいと、レイファルナスは思う。
「そういうのなら、私もゼスのあの揺るぎのない風格ってけっこうあこがれだな」
「あら、そうなの?」
「だって、ゼスって頼りになるじゃないか。そして、頼られてもきちんと応えられる。そして、それが表にでているよね。そういうところ、すごく羨ましい」
わりともろい心の持ち主のレイファルナスは、動じないアレイゼスの風格が好きだった。
「それを言うなら、わたくしも、ネイスクレファの落ち着きは見習いたいわね」
「はは、私もだな」
苦笑気味に言うと、レイファルナスははっと顔をあげた。
その様子にルファも顔をあげて正面を見ると、大神殿の反対側の通路(春・夏の絵画の飾ってある方の回廊)を通ってきたのだろう、アレイゼスとネイスクレファたちが話をしながら歩いてくるではないか。
「ああ、レイにルファじゃないか」
「ゼスたちも来てたんだ?」
「どうしたことじゃ。主島に四人も季主がそろうなんて」
「主島でしたいことがあったからきたのよ」
四者がさまざまなことを述べているところで、四人はうん、と納得したようにうなずいた。
「リアスさまに逢いに来たのじゃな」
ネイスクレファがそう言うと、他の三人はうなずいた。
「考えることはみんな一緒、というわけか」
アレイゼスも頷く。
「そのようだね」
レイファルナスも笑顔で頷けば。
「じゃあ、みんなでリアスさまのところへと行きましょうか」
ルファがにこりと笑った。
そして、この世界の季主たち四人は創造主リアスの元へとおもむいた。
自分の守る浮島の生物が、変わらず今現在も幸福であることを祈って、それを確認するために――