今現在の幸福 前編
文字数 1,664文字
ある日のこと。
冬主ネイスクレファは世界の中心に浮いている主島へと季主の道をつかっておもむいた。
主島であることをしにきたのだが、その際に大神殿内でばったりと秋主アレイゼスと出会った。
大神殿は入口をはいると、左右にこの世界の絵画をかけた回廊が回っている。
右側には春、夏、左側には秋、冬の各島の風景画が飾られ、中央の通路には主島の絵が掛けられていた。光は天窓から入り、やはりここもガラルド美術館のように絵に悪い光が遮られているが、とても明るい。今日はその天窓から、青い空が見えた。
ネイスクレファはアレイゼスと右側の通路に入り、普段見ることが少ない春島と夏島の風景画を楽しみ、会話をしながら先にすすんでいった。
「このまえぶりじゃのう、アレイゼスよ」
ネイスクレファはコロコロと笑ってアレイゼスに声を掛けた。
「そうだな。半年ぶりくらいか」
「つい最近、秋島に遊びに行ったばかりじゃからな。あのときは大神官の息子がいたな」
コツコツと靴の音を響かせて、二人は回廊をあるく。
「また遊びに行ってもよいか」
「いいとも。いつでもこい」
壁に掛けられている絵画を見ながら頼もしい言葉をさらりと言う彼は、ネイスクレファにとって一緒にいてとても安心する存在だった。
「最近は夏島や春島には、いっておらんのう」
「そうか。ネイスクレファは秋島にはよく来るよな」
彼の言葉に、ネイスクレファは少し考え込む。
「そうじゃのう。レイやルファは、見ていて少し危なっかしいところがあるからのう」
「どんなところが?」
そう聞いたアレイゼスにネイスクレファは首を少し傾ける。
「レイはもともと人好きのする容姿ゆえか、人に肩入れしすぎるきらいがある。ルファは気が強そうに見えてとても甘えたがりじゃ。隙がありすぎるから人間につけこまれる」
春主ルファの件は、この前のダリウス朱神官の不祥事のことを言っているのだろうとアレイゼスは思った。
夏主レイファルナスの方はついこの前、人間である大神官の跡継ぎとこの世界を廻って、お互いにとても意気投合したようだ。
「とくにレイに関しては、最近も人間の恋人をもったようだし。むかしの恋人のこともあるし、冷暖房の施設をこの世界に設置したときにも、人間に大きく肩入れしていた。もともとあれは夏島で考案されたものじゃったからな。結果的にいい方向に転じたが、あたしにはあのときも、あの博士にレイが感情移入しているように思えたものじゃ」
ネイスクレファは夏神殿の描かれている絵画を見ながら、その神殿の主である夏の季主のことを語った。
「その気持ちは少しだけ、あたしにもわかるがの……」
「ああ、俺もわかる」
コツコツと二人の靴の音が大神殿の回廊に響く。
「そう考えると、レイもルファも心配になるな」
「そうじゃのう」
「しかし、俺たちがどうこうできる問題でもないだろう。もうこれで二千年からやってきているんだし」
「それもそうなのじゃ」
ネイスクレファは軽くため息をつく。
そんなこんなでいろいろ考えると、アレイゼスのところが一番安定していて、ネイスクレファは安心するのだった。
アレイゼスも他者に頼ったり甘えたりするよりも、面倒をみたり頼られる方が気質的にあっている季主だったので、ネイスクレファのことは何も苦にならない。
逆に、レイファルナスやルファが一人で何とかしようとする様子をみていると、やはり少し心配になる。色々と相談してくれてもいいのに、と思う事もしばしばだ。
なんせ、自分たちはこの世界に四つしかいない存在なのだから。
「そういえば、ネイスクレファは何をしに大神殿に?」
「ああ、久しぶりに冬島の全体を見ておきたいと思ってな」
「ほう……。俺も同じ目的だ。秋島全体を見渡したくて、リアスさまにあいに来た」
「そうか」
ネイスクレファはにこりと笑むと、隣の身体の大きな季主をみやる。
「おなじ日に見ようと思うとは、なんという偶然じゃ」
「そうだな」
そう言いながら二人は大神殿の右側の回廊を、靴音を響かせて歩いていく。
この世界の創造主リアスにあうために。