疑惑

文字数 1,329文字

「さっきのミューが両方の世界を往き来できるかもしれないって、どういうことなの?」
レヴィ達と別れた咲良と和泉は、咲良の部屋に来ていた。

ベッドと少しのスペースがあるだけのレヴィやアイリスの部屋と違い、ビジネスホテルのシングルくらいの広さの部屋のベッドに咲良と和泉が並んで座っている。

「うん。料理っていっても何もないじゃない?」
「そうね」
「だからかなぁ。ミューが調理用具を持って来てくれたの」
「へぇ~、案内猫って便利なのね~」
「うん。私も最初はそう思ったんだ。でも……」
「でも?」
「これ見て」
制服のスカートのポケットにハンカチでくるまれていたそれは、和泉が小さい時に落書きをしたリンゴが今も残っている。
!!

「和泉、それ」

「うん、あの時の包丁だよ」
油性マジックで、大好きだったリンゴの絵を包丁の柄に描いて、すごく怒られて大泣きした和泉を一生懸命咲良が慰めた相原家の曰く付きの包丁である。
ここにあることがおかしい包丁、それをミューが持って来た。


「往き来できるのは間違いなさそうね。でも、どうやってこれを……!」
「ミューとチョコが同一猫なら、できるだろうけど」
「うん、私はそう思ってるよ」
「猫缶って、ここにもあるのかなぁ」
「猫缶?」
「うん。ピラー草原を出発した日ね、朝レヴィさんがみぞおちを押さえてうずくまってて、隣でミューが猫缶って言いながら寝てたの」
「チョコささみ好きだったじゃない」
「そうそう、生意気にもカルカン以外の反応が微妙なんだよね」
「カルカンって、おいしいのかなぁ」
「どうかな。でも、チョコは釣れるよね」
「釣れる、釣れる。シッポぶんぶんふってそうだよね」
「わかる~!」
「和泉?」
「あっ、ごめん。あの魔物と対峙した時も、ミューが猫缶って言ってたなぁって思い出したの」
「ピラー草原の時の?」
「咲良を傷つけたことは、猫缶禁止3000年の刑に値する」
「みたいなこと」
「えっ?」
「猫缶禁止3000年って、よくわからないよね」
「だね。ミューも猫缶大好きなんだね」
「でも、猫が猫缶好きでも不思議はないし……」
「そうでもないわよ、この世界に猫缶がなかったら、おかしなことになるもの」
「あっ、そうか」
「それじゃ、アイリスさん達に聞きにいこうよ」
「待って!和泉」
走り出そうとした手を咲良につかまれた。
「咲良?」
「レヴィさんも、アイリスさんも、いい人だと思うわ。でも……」
「なにか隠してる気がするの」
「咲良……!」
確かに明らかに様子がおかしい時があった。

それは和泉も感じていた。だからこそ話をしたかったけど、咲良がそう言うなら、もう少しこのままの方がいいのかもしれない。

「わかった。聖獣さまの時とか、あからさまにおかしかったよね。アイリスさんとレヴィさん」
2人を疑いたくはない。

レヴィさんやアイリスさんがいなかったら、ここまでこんなにはやくこれなかったと思う。あの魔物にやられて死んでいても不思議はなかった。

それにレヴィさんとアイリスさんは謝ってくれた。

召喚に失敗したのだとーー!


和泉や咲良の知っている公務員の人は、もっと傲慢だ。

交番のおっちゃんとか間違った道を教えても、絶対に謝らない。公務員のすべてがそうとは思わないけどってレヴィさんとアイリスさんって公務員だったかなぁ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色