風の宝珠2

文字数 1,650文字

「……時間よ」
理性は、目の前のジュリアスが偽者だと告げていた。アーノルドさんも、そう言っていた。


アーノルドさんを疑うわけじゃない。あの揺らぎも、言動も、不自然。


でも……!

(ジュリ兄……他の誰より会いたかった…………)
………………。
「セレス……さま?」
グノーシス王家に伝わる風の精霊の加護を受けた蒼弓を構え、矢をつがえると風の精霊神の力を通していく。


(蒼弓は王家の者を傷つけない)
「どういうつもり?」
苛立たし気にリディアが尋ねる。

答えを待っていたら、いきなり弓を向けられたのだ。不機嫌になるのも仕方ないだろう。

「これで決めるわ」
「なっ……!」
予想外の言葉に絶句する。

言葉としては、わかる。だが意味がわからない。

「風の精霊神ヴァン。セレス・グノーシスの名において、その力を示し給え!」(本物なら風の祝福を、偽者なら打ち砕いて)
風の加護を受けている蒼弓につがえられた矢は、セレスの手を離れた次の瞬間、ジュリアスを撃ち抜くとグニャグニャと曲がる空間の揺らぎとともに消え去った。
!?
(……やっぱり偽者なのね)


何が起きたのか、一瞬わからなかった。

矢が放たれて目標に届くまでには、多少のタイムラグがあるのが普通だ。

射る者の手を離れた瞬間に射抜くなんて聞いてない。


「ジジイ。あんたの入れ智恵か?」
「幻覚だと申しあげただけでございます。」
「あんた、本当にムカツクわ」
「珍しく気が合いましたな。私もです」
「フレイムバースト」
「フローズンダガー」
10本くらいをまとめてだしたナイフに魔法フローズンをのせたものを連続でリディアに投げる。魔法フローズンレインのナイフバージョンである。


リディアは、ミスリル銀で作られた杖をクルクルと軽く廻すと、飛んできたナイフを軽く受け流した。
「アーノルド殿」
客人であるアーノルドは謁見のため、剣を騎士団に預けていた。

敵意がないことの証明である。予定では勇者やレヴィ、アイリスと一緒に入ってジュリアスさまの情報を進言しに来ただけであり、4天王と手合わせなど予定外のことである。

「クルト殿。ありがとうございます」
アーノルドに向かって投げられた剣を空中で受けとると鞘を抜く。

充分な高さをとるとリディアの真上から斬りおろす。

「……ふ~ん。思ったより楽しめそうね」
ギリギリ最小限の動きで避けたレディアが不敵な笑みを浮かべる。
「ナイ……!」
魔法の詠唱を始めたリディアの足下から隆起した岩が、リディアの足を捕らえた。バルキリーダイブの追加効果だ。
「バルキリーダイブ」
!?

(……チッ!)

「ナイトエイド」
「シャインアロー」
気を取り直して魔法の詠唱を始めたリディアの手から闇のマナが放たれたのと、セレスが光をまとった矢を放ったのは、ほぼ同時。
「ホーリーブレード」
「ウインドブレード」
クルトとアーノルドの剣技が上乗せされ、形作られようとする闇のドームを光と風の力が切り裂いていく。
7割ほどを削ったころ、なんの脈絡もなく闇の魔法が再生し始める。
!?

「エレメンタルガード」

全員の魔法防御力が15%アップ。
「おもしろいことをされますな」
「もっとほめてもいいのよ」
リディアの使った魔法の再生は論理的には誰にでもできる。

マナを補充するだけのお手軽なもの。魔方陣の起動などにも使われる、ごく初歩的なものだ。


「パーフェクトガード」
「グラヴィトン」
「ほめたら調子にのりそうですな」
「誉められて伸びるタイプと言ってほしいね」
圧倒的な闇の圧力がセレス達を押し潰そうとするが、アーノルドのパーフェクトガードにより、ダメージの70%が無効になった。
セレスのエレメンタルガードもあり、使い込んだクルトの盾に少しの傷をつけただけにとどまる。
「……無効化!?」
「退かれますかな?」
「調子にのるな、ジジイ。今のは小手調べだ」
(この程度で音をあげられては、おもしろくないからな)
「リディア」
!?
「リュミエールか。今、いいとこなんだ。ジャマするな」
Zzz
「……例の準備ができた」
「例の準備?」
「答える義理は、ない」
「……勝負は預けておくわ。ジジイ」
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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