風の宝珠2
文字数 1,650文字
理性は、目の前のジュリアスが偽者だと告げていた。アーノルドさんも、そう言っていた。
アーノルドさんを疑うわけじゃない。あの揺らぎも、言動も、不自然。
でも……!
グノーシス王家に伝わる風の精霊の加護を受けた蒼弓を構え、矢をつがえると風の精霊神の力を通していく。
苛立たし気にリディアが尋ねる。
答えを待っていたら、いきなり弓を向けられたのだ。不機嫌になるのも仕方ないだろう。
予想外の言葉に絶句する。
言葉としては、わかる。だが意味がわからない。
「風の精霊神ヴァン。セレス・グノーシスの名において、その力を示し給え!」(本物なら風の祝福を、偽者なら打ち砕いて)
風の加護を受けている蒼弓につがえられた矢は、セレスの手を離れた次の瞬間、ジュリアスを撃ち抜くとグニャグニャと曲がる空間の揺らぎとともに消え去った。
何が起きたのか、一瞬わからなかった。
矢が放たれて目標に届くまでには、多少のタイムラグがあるのが普通だ。
射る者の手を離れた瞬間に射抜くなんて聞いてない。
10本くらいをまとめてだしたナイフに魔法フローズンをのせたものを連続でリディアに投げる。魔法フローズンレインのナイフバージョンである。
リディアは、ミスリル銀で作られた杖をクルクルと軽く廻すと、飛んできたナイフを軽く受け流した。
客人であるアーノルドは謁見のため、剣を騎士団に預けていた。
敵意がないことの証明である。予定では勇者やレヴィ、アイリスと一緒に入ってジュリアスさまの情報を進言しに来ただけであり、4天王と手合わせなど予定外のことである。
アーノルドに向かって投げられた剣を空中で受けとると鞘を抜く。
充分な高さをとるとリディアの真上から斬りおろす。
ギリギリ最小限の動きで避けたレディアが不敵な笑みを浮かべる。
魔法の詠唱を始めたリディアの足下から隆起した岩が、リディアの足を捕らえた。バルキリーダイブの追加効果だ。
気を取り直して魔法の詠唱を始めたリディアの手から闇のマナが放たれたのと、セレスが光をまとった矢を放ったのは、ほぼ同時。
クルトとアーノルドの剣技が上乗せされ、形作られようとする闇のドームを光と風の力が切り裂いていく。
7割ほどを削ったころ、なんの脈絡もなく闇の魔法が再生し始める。
リディアの使った魔法の再生は論理的には誰にでもできる。
マナを補充するだけのお手軽なもの。魔方陣の起動などにも使われる、ごく初歩的なものだ。
圧倒的な闇の圧力がセレス達を押し潰そうとするが、アーノルドのパーフェクトガードにより、ダメージの70%が無効になった。
セレスのエレメンタルガードもあり、使い込んだクルトの盾に少しの傷をつけただけにとどまる。
(この程度で音をあげられては、おもしろくないからな)
「リュミエールか。今、いいとこなんだ。ジャマするな」
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