初めての謁見(レヴィとアイリスの長い1日)

文字数 2,138文字

「アル爺と俺の目をごまかせると思ってんの?」
レヴィにとっての不幸は、この場にアーノルドとカイがいたことだ。

アーノルドはレヴィの家に仕えていた執事であり、兄貴と仲のよかったカイは頻繁にグレイス家に出入りしていた。

良くも悪くも、レヴィのことをよく知っている相手である。
…………
「何を隠しておいでなのです」
「何も隠してなどいない。あれですべてだ」
「あの程度の話なら、レヴィさまなら最初から話されていたはずですが」
「小事を話して、大事を秘匿するなんて知恵いつつけたんだよ」
「…………なんの話だ」
「……やめて。レヴィは…………」
「レヴィは、私をかばって」
「アイリス!」
レヴィとアイリスの声が重なる。
「レヴィさま。婚約者をかばいたいお気持ちは、わかりますが……」
あきれたようにアーノルドは、タメ息をついた。
「カイっ!」
~♪
レヴィが睨み付けるが、まったく意に介さない。
「私も聞きましたわ。おめでとう、レヴィ。アイリス」
「誤解だ!」

「誤解です!」

「お城の真ん中で愛をささやかれ、涙ながらにアイリス殿が返事をされたとか。次はお子さまですな」
アーノルドの顔には、うっすらと嬉し涙がうかんでいる。
「アル爺、誤解だ!カイの口車に惑わされるなっ!!」
「アイリスとレヴィの子供なら、可愛い子が生まれそうですわね」
「セレスさまっ、誤解ですっ!!」
「さようでございますな、セレスさま」
終始この調子でレヴィとアイリスの言い分をきれいにスルーして、婚約パーティの開催が後日に決まり、レヴィとアイリスは疲れきっていた。
「めでたい話がまとまったところで、本題に戻るか」
「……覚えてろよ!カイ」
レヴィがすごむが、涼しい顔でカイは受け流した。
「アイリス殿は、何を隠しておいでなのですか?」
「答えなくていいっ!」
「レヴィ……」
「しかし、それでは勇者さま達は引き受けてはくださるまい」
「……俺が話す」
(俺が話すのは契約に含まれないはずだ)
(それはそうだけど……)
「アイリスは、魔術で刻の流れを変えることができる。この力に空間を移動する力を加えたものが転移魔法だ。転移魔法には、

咲良さん達を召喚したような魔方陣を使うものと、

魔術研究所からサルサの街に移動したような魔方陣を使わないものがある。」

「魔方陣を使わない転移魔法を使えるのは、俺の知る限りルーカスさんとアイリスだけだ。」
「あれは多くのマナを必要としますからな」
「あぁ。この国では聖獣さまがこの国を守護するための移動手段の助けとして刻の力をもつ者が聖獣さまと契約をすることになっている。」
「ルーカスさんも契約しているのか?」
「いや、ああいうお方だからな。アイリスだけだ」
…………!
「アイリス、レヴィ。重大な契約違反にゃ!!」
アイリスの胸の部分にミューが薄く重なる。
……………あぁ……!
アイリスの顔から急速に色が失われ、崩れ堕ちた。
「アイリスッ!!」
「アイリス殿っ!」
「セレスさま、こちらへ」
「離しなさい!カイッ。アイリスッ!!」
カイを引き剥がそうと必死に抵抗するものの、なす術なく連れられていくセレスさまとカイの声が遠くなっていく。
「アイリスをもとに戻せっ!!」
「いやにゃ!!」
「まだ何も言ってないだろ?」
「レヴィさまが言われたことは、勇者さま以外この場にいる全員が既に知っていることですぞ。」
「言おうとしてたにゃ」
「俺が言うのは契約に含まれていない」
「屁理屈にゃ」
「正当な主張だ。アイリスは何も言ってない」
「屁理屈じゃないよ。チョコ」
「和泉。ぼくはミューだよ。チョコなんて名前しらない」
「チョコちゃん、もういいのよ。全部わかってるから」
「わかってにゃい!咲良には、わからないにゃ!」
「アイリスさんをもとに戻してっ!」
「いやにゃって言ってるにゃ!!」
プチン
和泉のなかで、なにかがキレた。
「チョコ!お座りっ!!」
「にゃっ」
条件反射でお座りのポーズをとってしまうミュー。


「オイタがすぎますな、聖獣さま」
アーノルドの言葉が終わる頃には、数本のサバイバルナイフがミューの身体ギリギリに正確に埋まっていた。
「アイリス殿をもとにお戻しなさいませ」
「にゃ、にゃにゃ、にゃん」
コクコクと真っ青な顔でうなずく。

アイリスの側に行くと、アイリスを縛っていた呪縛を解いた。

「アイリス!大事ないか?」
「ええ」
「アイリスッ!!」
カイの手から解放されたセレスがバタバタと駆け込んできた。
「セレスさま、申し訳ありません」
「いいのよ、そんなこと。大事ない?」
「はい」
「……そう、よかった」
「アイリスさん、レヴィさん。家のチョコが、すいませんでした」
「私も、申し訳ありませんでした」
2人揃って深々と頭をさげる。
「チョコッ!!」
………………

ヽ(; ゚д゚)ノ ビクッ

「アイリス、レヴィ。ごめんなさいにゃ」
「あぁ、アイリスにあまりムチャ言うなよ」
「ええ。言わなくてもバレてたみたいね」
「カイッ!セレスさまの護衛を放っといて何をしている」
「呼んだ~? あ、これ招待状ね。アイリスちゃんも」
「……招待状?」
レヴィ・グレイス&アイリス・フォーミュラー  婚約パーティ


弥生月 72日

PM19時~

「なっ……!」
「カイッ!なんのまねだ」
「勅命でさ、明日中に数百通書かないといけなくてさぁ」
「セレスさまっ!!」
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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