初めての謁見(咲良の決意の波紋)

文字数 2,197文字

咲良の言った言葉は、グノーシスの世界観次第では勇者とはいえ反逆罪で処刑されても文句の言えないような言葉だ。


セレスさまが勇者の力が必要と判断したそれを、召喚された勇者自身が真っ向から否定する。


『勇者なんて、いらないですよね』
そう言っているのと同じだった。
これを言うことは、ここまで優しく気遣ってくれたアイリスさんやレヴィさんを傷つけることだと咲良もじゅうぶんわかっていた。もちろん、セレスさまのこともーー。
「非礼は、お詫びします」
深々と頭をさげる。

それがいまの咲良にできるせいいっぱいだ。

ジュリアスさまが王子さまだと知る前は、もう少し待つつもりだった。ミューとは、あれっきりだし、レヴィさんとアイリスさんには助けてもらった恩義もある。
セレスさまが王位について日が浅いとアイリスさんに聞いた。

その前は、ジュリアスさまが王位に?

ジュリアスさまが生きてらして王位継承権がセレスさまより上なら、ジュリアスさまが国王になるはずーー。


その時に政策が違うからといきなり梯子を外されるなんていうのは、最悪だ。

「……咲良さん」
……………………。
「レヴィさんとアイリスさんには感謝してます。お2人がいなかったら和泉も私も、あそこで死んでました」
「咲良さん……」
………………。
「でも……お2人とも大事なことを私達に隠してませんか?」
「……それは」
「……セレスさまのご意向ですか?」
「……私?」
顔をみあわせるレヴィとアイリス。
「咲良さん、なにか誤解があるようだが俺達は隠し事なんて」
「なぁ、嬢ちゃん」
護衛の騎士が、謁見の内容に口をだすことは異例のことだ。

だが、セレスさまにまでよくわからない誤解が及んでいるなら、話は別だ。

「古泉 咲良です」
「じゃぁ、古泉さん。ヴィ団長もアイリスちゃんも、腹芸みたいな器用なマネ出来ないと思うが、なぜそう思うんだ?」
「だからです」
「えっ?」
「聖獣さま ミュー」
!!
「…………なっ!!」
胸を抑え、泳いだ目をごまかすように目を伏せるアイリスと、なにか言おうとはしているが、明らかに動きのとまるレヴィ。
(できない、できないとは思ってたけど、これほどとはね)

「……なるほどね。怪しすぎるな。」

「同感ですな。怪しむなという方が無理でございましょう」
…………。
「おいっ、ヴィ!何を隠してるか知らんが、おとなしく吐け」
「そうですぞ。ことはセレスさまの名誉に関わること」
!!
「セレスさまのご意向は、無関係だ」
「……そうですか。申し訳ありません」
「咲良さんとおっしゃられましたか。謝る必要などございませぬぞ」
「アーノルドさん?」
「悪いのはレヴィさまにございます。お父上の代理とはいえ、王国騎士団団長という言葉のもつ重みをわかっていらっしゃらないから、このようなことになるのです!」
ーーーーーー!!
(レヴィ……私!)
(……黙ってろ)
「レヴィさま、聞いていらっしゃるのですか?」
「……あぁ、聞いてる」
いつの間にか、レヴィの後ろに来ていたカイが、レヴィの肩に手をおいて耳打ちした。
(フレデリカ  キス(^з^)-☆)
!!

「……なぜ、それ」

(オスカーに聞いた。他にもあるな、10歳まで……)
(やめろっ!)

あのバカ兄貴!

恋のABCからレヴィのオスカー評価は、駄々下がりである。

今まで尊敬していた反動もついて加速度的に減少中だ。

「なら、吐け。何をそんなに隠してるんだよ」
「そ、それは……」
(そうか。なら、アル爺に教えてあげないとな)
明らかに言いよどむレヴィに少し苛立ったカイが最終通告をした。
!!

(……あれは事故だ)

(それは、アル爺の印象次第じゃねーの)
(わかった。言うからアル爺には言わないでくれ)
「あぁ」
「咲良さんと和泉さんを助けたのは俺達じゃない。聖獣さまだ」
「風の迷宮付近に来たのはいいが、和泉さんや咲良さんをなかなか見つけられなかった」
「でも……聖獣さまが力を解放した気配がして、アイリスと俺は……その気配を追ってきただけだ」
「聖獣さまが力を?どういうことですか?レヴィ」
……………………。
「詳細は、わかりません。俺達が着いた時にはすべて終わっていたからです。その近くにミューと和泉さん、少し離れて咲良さんが倒れていたから救助を優先しました。」
「聖獣さまは、勇者さま召喚後は勇者さまの本来の居場所を護ると聞いておりましたが、異なこともございますな」
「本来の居場所……ですか?」
「ええ、もともと咲良さんや和泉さんのいらした世界でございます。聖獣さまは、今はそちらを本拠地とされているはずなのです」
「聖獣さまは、2つの世界を往き来できるのですか?」
「はい。聖獣さまは、2つの世界を往き来し勇者さまの本来の居場所を護りながら、勇者さまとともに魔王を倒すと古来より伝えられております」
!!
それじゃ、やっぱりチョコが……!
「……それで?」
「それでってなんだよ」
「隠してること、まだあるだろって言ってんだよ」
「ねーよ」
「レヴィさま、下手なウソはやめた方がいいですぞ」
「う、ウソなんて、ついてねーし」
「じゃぁ、なんで隠してたんだよ」
「……和泉さんと咲良さんが可愛かったから」
「マイナス10点ですな」
「なんだよ!マイナスって……」
「レヴィさま、たいへん失礼ながら子供でも、もっとマシなウソを言いますぞ」
「俺はウソは……!」
「勇者さま達は確かに可愛い。でもアイリスちゃんが、その理由で協力はしないだろ?」
「…………あっ!」
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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