異世界のお風呂事情(閑話休題)

文字数 2,141文字

コンコン
「アイリスです」
「はい、今開けます」
「レヴィがいたから渡せなかったけど、大浴場で下着なんかも売ってるの。良ければ使ってね」
そう言って紙幣を手渡された。


2人:ありがとうございます。
「ごめんなさいね。本当は着替えの服もって思ったんだけど、父のせいで買い物が出来なくなって……」
「アイリスさんのせいじゃないですよ」
「そうですよ。お気遣い、すごく嬉しいです」
「そう言ってもらえると救われるわね。ありがとう」
「それじゃ、また明日ね」
「はぁ~、ビックリした~!」
「噂をすればってのかもね」
「だね~、レヴィさんも来たらかんぺきだね」
「お風呂行かない?」
「行く~!もう汗でベトベト」
「湯船で泳がないでよ!」
「もぉ、いつの話よ。それ」
って……!

湯船って、あるのかなぁ。

ご飯の時のお魚を思い出して不安になってくる2人。

「大浴場まで競争ね」
「えっ?ちょっ、ちょっと和泉っ!」
階段をかけ下りると晩ごはんを食べた食堂が目の前に見えてくる。

右に曲がろうとした時だった。

ドン!!
「いたた」
「和泉っ!」


「っつ、大丈夫か?」
「はっ、はい~、ってレヴィさん?」
「ん?和泉さんに咲良さんか。すまない、ケガはないか?」
2人:はい
「そうか。じゃぁ、急ぐからまたな」
「もう、廊下を走ったら危ないじゃない!」
「うっ、ご、ごめんなさい」






大浴場 下着売り場前
「困りましたわね、和泉さん」
案内されたコーナーには、これでもかってくらいの「更級(さらし)の束」が積まれていた。
「そうですわね、咲良さん」
「上はなんとなく想像つくけど、下は……どうすると思う?」
「うーん、フンドシとか、まわし?」
「どうやるの?」
「しらな~い!!」
「あー、いたいた。あんたらやろ、アイリスの連れって」
「アイリスさんをご存じなんですか?」
「えぇ。申し遅れました。もと宮廷魔術師で、今は冒険者をしているシフォン・ブラウンと申します」
「相原 和泉です」
「古泉 咲良です」
「やっぱ挨拶はえぇなぁ。人間関係の基本やわぁ」
「それ、困ってるんやろ」
「はい」
「まかせとき、きっちり教えたるからな」
「やったぁ。ありがとうございます」
「ありがとうございます。助かります」
「どういたしまして。ほな、それ買うて風呂はいろか」
「そこまでしていただくのは申し訳ないので、手順を……」
「なぁに、水くさいことゆうとるの」
「えっ?」
「きゃあああああ」
「遠慮せーへんの」
両腕に和泉と咲良をそれぞれ抱えると、まっすぐ脱衣場に向かう。
「いっ、いきなり何するんですか?」
「まぁまぁ、そうとがらんとき」
「そんなことより脱いで!」
「えっ?」
「脱がせてあげても、ええけど」
「下着、そないなってるんやね。かわええなぁ」
「そんなマジマジ見ないでください。はずかしいです」
顔を赤らめた和泉が軽く抗議する。
「さらしより、そっちの方がええなぁ。千尋に作ってもらおうかな」
2人:千尋?……さん?
「あんたらと同郷かもしれへんな」
「あの……その人は」
「この街で千尋のアトリエいうお店をやってる錬金術師や」
「錬金術師……」
「そや、採取の護衛を終えて戻ってきたとこや」
お風呂場に続くドアを開ける。

中の煙で一瞬視界がふさがれる。そして暑い。

サウナにきた気分にさせられる暑さだ。

「これで髪と身体を洗うんやで」
シフォンの手には透明なビンが握られていて、中に乳白色の液体が入っている。シャンプーやボディーソープの区別はなく、これ1つで全部洗うようだ。
「水は青、お湯は赤を右にひねると出てくる。左にひねると出てこなくなる」
2人:えっ?
「千尋がシステムを作ってくれてな、めちゃ便利になったんよ」
「千尋さんが?」
「すごい人なんですね」
「そやろ?千尋の錬金術は、すごいんや」
(この技術を持ち込めたら大発見かも)
「1本で全部洗えるのって楽かも~」
「そうだね。トリートメントまですると時間かかるよね」
「1本やないの?」
「はい。ボディーソープ、シャンプー、リンス、トリートメントの4つあります」
「4つ~?なにそれ。めんどくさ~い」
「髪、シャンプーだけだとゴワゴワになってしまうので、リンスとトリートメントでケアしないといけなくて」
「そやの、大変ね~」
心底、同情したようにシフォンはため息をついた。
「そろそろユニにはいろか?」
「ユニ?」
「あれや」
シフォンの指差す先には、湯船?らしきものがあった。

周りを金属で固められ、中にはお湯が入っている。お湯の底には砂のようなものが敷かれているが、お湯は透き通っている。

「ん、ちょうどええ湯や」
2人:あつっ!
「軟弱やなぁ。ユニにつからな、疲れがとれへんで」
2人:きゃああああああああ

(疲れがとれる前に火傷しますーー(。>д

熱湯風呂をしていた芸人さんの気持ちが、少しわかったような気がした。



脱衣場

2人:できました。
「アカンな」
「ひゃぁ、ちょっ、どこ触って……」
「きゃっ、あ……そこは……」
さらしの中に手をいれて、胸の位置を調整すること数秒。
「ただ、まくだけやのうて、胸の位置を調整せなアカンよ。垂れとうなければ、ね(ФωФ)」
2人:はい、ありがとうございました。
「どういたしまして。ほな、またね」
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シフォンが去ったあと、へなへなと座りこむ和泉と咲良の姿があった。
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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