グノーシス城へ

文字数 2,383文字

AM7時  食堂
ビッターーーン!!
「グハッ」
背中を思いっきり叩かれ文句を言おうとしたレヴィは、シフォンの顔を見て言葉を飲みこんだ。
「おはよう、レヴィちゃん」
「おはようございます。シフォン先輩」
「どない?なにかわかった?」
「いえ、まったく」
「そう、こっちもよ」
「先輩……俺は」
「レヴィのせいやないわ」
「ほんま、堪忍な。レヴィちゃんにあたってしもうて……」
「そんなことは……」
ないです、と言いかけて人の気配に言葉を止めた。
「シフォン、レヴィおはよ」
「おはよっ、アイリスちゃん」
「あぁ、はよ」
「シフォン昨日はありがとう、助かったわ」
「えぇよ。可愛い子達と知り合えたしな」
「……収穫なかったわ。ゴメンね、むり言ってシフォンに替わってもらったのに!」
「謝らんでもえぇよ。情報ないんは、ウチらも一緒や」
「ここまで情報がないやなんて……」

(身を隠してるだけならええけど)

「仮にも王族ですし、やはり不自然ですわね」
「あぁ、近衛も含めた全員の情報がないなんてな」
煮詰まった重い雰囲気がレヴィ達の間に流れる。
「なぁ、あの子達には、どこまで話してるん?」
「国の意向でアイリスが勇者として召喚したことと、手違いがあり召喚される位置がずれてしまったことだけです」
「本当はもう少し話した方が良かったかもしれないけど、わからないことが多すぎるわ」
「そう……。あの子達、千尋のことを気にしてたみたいやったから、たぶんまた会うと思う。」
「そうですか。千尋は元気ですか?」
「めちゃ元気や。シュノーケル台地で採取して帰ってきたから、調合の鬼になってるんちゃうか」
2~3日は近づかない方が無難だな。

                                                 無難ね。

「ほな、そろそろ行かな」
「闘技場?ご武運を」
「アイリスちゃん、ウチは戦わへんて」
「いや今日あたり、おやっさんが……」
「!今日、そういう日なんか?」
「えぇ、昨日決勝戦だったから例年通りなら、そうですわね」
「顔見なくてすむと思うとったのに……」
肩をおとしたシフォンがトボトボと歩いていく。
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和泉の部屋     AM7時

「…………和泉が、もう起きてる?」
「何よ。そのニヤニヤ笑い」
「槍でも降ってきそうね」
「降らないわよ!」
「昨日、眠れた?」
「うぅん。先輩にさえ触らせてないのに(´;ω;`)」
「いきなりすぎだよね」
「咲良ーー(。>д
「私、お嫁に行けないかもしれない」
「大丈夫よ、和泉なら可愛いお嫁さんになれるわ」
言いながら、和泉の頭を優しくポンポンする咲良。
(咲良の頭ポンポンって、落ちつくなぁ)


「そう……か…………Zzz」
「ちょっ、ちょっと和泉!起きてっ!!」
コンコン
ドアを開けると入ってきたのは、レヴィとアイリスだった。


「……和泉さんは寝てるのか?」
「さっきまで起きてたんですけど、すいません。いま起こしm……」
「大事ないわ。疲れてるのね」
「朝メシ、和泉さんの分は包んでもらうか」
「そうね、セルードの予約は動かせないもの」
ダルーンのタマゴの目玉焼きとエルンストのサラダ、ナンのようなパンに近い主食と飲物という簡単な朝食だ。和泉だけを残していく訳にはいかないので、部屋にもってきてもらった。
さすがにこの部屋に4人は狭いけど、背に腹は変えられない。
「あぁ」
「慌ただしくてすまないな」
「いえ、こちらこそ和泉が起きなくて……ごめんなさい」
「こちらの都合で申し訳ないが、謁見の予定が詰まっていてここを逃すと1週間後になってしまうんだ」
「王女さまって、やっぱりお忙しいんですね」
「……そうね、セレスさまが王位につかれて日が浅いから、外交が多く入ってるわ」
「歩きながらでいいか?そろそろ出ないとまずい」
和泉を背負ったレヴィとアイリス、咲良はチェックアウトの手続きを済ませると、外にでた。
「レヴィさま、お待ちしてました」
「いつも悪いな」
セルードの背中を優しくなでる。
「頼むな、セルード」
久し振りにレヴィに会ったことでテンションが上がってるセルードを優しく見守っていたい気分にさせられるが、時間がない
「セルード」
嬉しそうにレヴィのところに戻ると、顔をスリスリと擦り付けてくる。

友愛の印だ。

「女性も一緒なんだ。優しく頼むな」
ブルル……!!

セルードは鼻を鳴らした。

セルード(アイリスは、どうした。浮気者!)
「おっ、おい。セルード?」
ブルル……!!ブル!


まったくわかっていない様子のレヴィにセルードは苛立っていた。

「セルード、異世界からきた勇者さまよ。大切なお方なのよ」
アイリスに顔を擦り付けて挨拶をする。
「お願いね」
セルード(アイリスが、そう言うなら乗せてあげてもいい)
「古泉 咲良さんよ。可愛いでしょ?」
「古泉 咲良です」
咲良に近づくと匂いをかぐ。

しばらく咲良をじっと見ていたセルードは咲良に背中を向けて、乗れというように静かに座った。

ありがとう、セルード

ありがとな、セルード

「咲良さん、セルードの上に座って、しっかりつかまって」
「は、はい。よろしくお願いします。セルードさん」
少し緊張した感じで言うとセルードに乗った。
「アイリス、ありがとう」
「どういたしまして、咲良さん、少し待っててね」
「トルート」
アイリスがそう言うと、フワフワした大きい布のようなものが現れた!


レヴィは、その布の上に優しく和泉をおろした。

こうして出発した4人はグノーシス城を目指していた。


サルサの街とグノーシス城を結ぶサルサ街道は治安が良く、魔物や盗賊の類いはあまり出ることはない。冒険者ギルドや闘技場があるこの街は、冒険者の出入りも多い。


騎士団や王宮魔術師も定期的に見回りをしているため、安全に通ることができる。

だから、これは保険だ。

何もなければ、城に早めに着くだけーー。

それだけの話だ。

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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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