初めての謁見(グノーシス王国の事情)

文字数 1,902文字

「こちらの情報を開示しないで、助けを求めるのは、フェアではないわね」
「1年前この城は魔物に襲われているのです」
「……魔物に?」
!?
…………。
「ええ。私は、レヴィとアイリスと数人の騎士と外交に出ていて、戻った時には、もう……」
「セレスさま」
…………。
………………。
「謁見の間に突如あらわれた魔物と一緒に、当時謁見の間にいた国王と王妃、第1王子と近衛、大臣が姿を消してしまったのです」
「……それは魔王が?」
「……わかりません」
セレスは首を大きく左右にふる。
………………。
「ですが同日、私も何者かに襲われレヴィやアイリスがいなければ、いまここにはいませんでした」
「そんな……」
「そして、ジュリアスお兄様も同日外交の帰りに襲われているのです」
!!

「それは!」

「ええ。……そして、ジュリアスお兄様は……」
あふれる思いを落ち着けるように一瞬目を閉じ、深呼吸する
「ジュリアスお兄様は、半年経っても自分が戻らなかったり、連絡がとれないようなことがあったら、勇者さまのお力をかりるように言い残して、行方不明者の捜索にでたきりなのです」
「……それじゃ、あの時が半年…………」
「はい」
「……失礼ですが、王家をよく思わない人の犯行ということも考えられるのでは、ありませんか?」
「その可能性も考えました。ですが、動きがなさすぎるのです」
!?
「1年前の襲撃いらい魔物の活動も活発になって、私と小数の者しかこの城にはいません。でも不気味なくらい動きがないんです。王家の滅亡が目的なら絶好の機会なのに、です」
「ジュリアスさまが戻られれば、チャンスを棒にふりますからな」
「ジュリアスさまって強いんですか?」
「あぁ。ジュリアスさまは、もちろん近衛も強い者が揃っているな」
「私達では手も足もでないわね」
「すごい方なんですね」
「アーノルドさん。ジュリアスお兄様と近衛騎士隊長オスカー・グレイスさんの情報の報告を」
(ジュリアスさま、兄貴)
(オスカー。俺は……)
「アルティメット王国の西、エルド砂漠を通る行商人が見慣れないテントを最近見かけることが多くなったそうでしてな」
「行商人……」
「さよう。似顔絵を見せて確認したところ、ジュリアスさまとオスカーさまに酷似していると申しておりましてな」
………………。

「そのテントはいつ頃から?」

「2~3週間前と聞いてますが……レヴィさま?」
「すまない。タイミングの問題だったようだ」
「他人の空似の可能性もございますが、ジュリアスさま達であれば活路も見いだせましょう」
「私、行ってみようと思うの」
「セレスさま、まさか……!」
「さすが私の近衛ね。理解が早くて助かるわ」
「なに言ってるんですか!エルド砂漠は、危険な魔物がいっぱいいる未開の地ですよ!」
「大丈夫よ。行商人が行けるんだもの」
「セレスさま。その行商人は元アルティメット王国騎士団団長でございますが……」
「俺達が確認してきますから、城でおとなしく」
「イ・ヤ」
「お風呂に入れない日もありますよ」
「…………そうなの?」
「砂漠では、水は貴重でございます」
「飲み水の確保も困難になるな」
「で、でも……私!」
ジュリ兄に会えるかもしれないのに、城で待つだけなんて……!
「オスカーから聞いたのですがジュリアスさまは、セレスさまが城をしっかり守っていてくれるから安心して捜索に力を割けるとおっしゃっていたそうですよ」
「えっ?」
「わかったわ。私、お城をしっかり守ってみせるわっ!」
小さくガッツポーズをとると、あえなく前言は撤回された。
(おい、カイッ!そんなの聞いたことないけど大丈夫なのか?)
(だろうね。俺も聞いたことないし……!)
!!
(って訳で根回しよろしく)
(兄貴はともかく、ジュリアスさまなんて、どおすんだよ)
(そこは、ほら。騎士団団長とかいろいろあんだろ?)
(知らねーよ!メンバーにいれてやるから、自分でなんとかしろ!)
(ヴィ団長が冷たい)
(シナをつくるなっ!)
「でも……勇者さま達はどうします?」

当初の予定では、しばらくの間、レヴィとアイリスが剣と魔術やこの世界のことなどを教えるはずだった。

しかし、エルド砂漠に行けば最短でも2ヶ月は帰ってこれない。
「……そうね。アーノルドさん、お願いできるかしら?」
「……構いませんが」
「アル爺。彼女達は戦いのない世界からきてるんだ。お手柔らかに……」
「レヴィさま!そのような理屈、魔物には通りませぬぞ!!」
「いや……基本から優しく」
「そのような甘いことをおっしゃっているから、いつまでもヒヨッコなのですぞ!」
「俺のことじゃなくて」
アーノルドとレヴィのやり取りを見ていた和泉と咲良は、めまいがしてきた。
アーノルドさん激変しすぎ!!
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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