グノーシス城 城下町前

文字数 1,664文字

セレス王女との謁見を無理矢理ねじ込んだ時間が、ほぼ朝イチのため時間短縮は必須だ。セルードなら、約1時間でグノーシス城につける。シフォンには悪いけど、ルーカスも闘技場に釘付けだろう。
布に乗ってフワフワと空を飛んでいるアイリスは、慎重に辺りを警戒している。雰囲気を感じとったのかセルードの警戒が1段階あがる。
特にいま襲われるという根拠はない。

けど、1年前のあの失態を繰り返す訳にはいかない。

安全策というのもあるが、ひらたく言えば1年前のトラウマから、レヴィもアイリスもまだ抜け出せないでいた。

街路樹に挟まれたサルサ街道を道なりに進んでいくと、遠目に西洋風のお城が見えてきた。グノーシス城まであと2キロメートル。
「このまま何もなければいいけど……」
「そうだな」
ここから先はクネクネとした道が続く。

極端に視界が悪くなることはないものの油断は禁物。

警戒しつつも、いい感じにセルードが風を切って駆け抜けていく。

数分後ーー。

城下町の入口が目の前にひろがる。アイリスは地面に布をゆっくり降ろしていき、レヴィはセルードから降りると咲良をエスコートしていた。

「大事ないか?」
「はい、ありがとうございます」
「和泉さん、起きて」
アイリスが優しく肩を揺する。
「Zzz」
「困ったわね」
「和泉っ!!起きて!」
寝ている和泉の頬をペシペシと叩き、肩をもって前後にガシガシと揺さぶる。
「和泉っ!!」
「おっ、おい。大丈夫なのか?あれ」
「さっ、さあ……」
和泉を心配して小声で話すレヴィ達。
「ZzzZzz…………」
咲良は、スゥ~っと思いっきり息を吸い込んだ!



「あぁーー!あんなところに『キノコの里山』がいっぱーーいっ!!」





「えっ?どこどこーー?」
「なに寝ぼけてんのよ!!」
ベシッ
「いったーーい」
咲良に思いっきり頭をはたかれた和泉が、頭を押さえてうずくまっている。
「和泉が起きないから、みんな困ってたのよ!」
「うぅ、ごめんなさい」
頭を押さえつつ謝る和泉。
「ええと、ここ、は!?」
「グノーシスの城下町の少し手前だな」
!?
「起こさないで連れて来ちゃったからビックリするよね」
「はい……」
「和泉っ!」
咲良に思いっきり睨まれている。
「あ、えっと違くて……!」
「……じゃなくて、あの私……ご迷惑おかけしました」
「大丈夫よ、疲れてたのよね」
「喉渇いたろ?やるよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
喉がカラカラだった和泉はレヴィからもらったそれを口一杯に含んだ。


「ゴッ、ゴホッゲホッ、ケホッ」
口の中で、なにかものすごく酸っぱいナニカがスパークしている。
「和泉?」

「和泉さん?」

咲良が和泉の背中をさすり、キョトンとした顔のレヴィが見守っていた。
「レヴィ、なに飲ませたのよっ!!」
「……レーシカだけど」
「寝起きには、やっぱこれに限るとか言ってるアレ?」
「あ、あぁ……って、なに怒ってんだよ」
レーシカは、レモンスカッシュをハチミツで割ったような飲物で子供や女性に人気がある。レーシカそのままなら、何も問題はない。
問題はレヴィ特製なところにある。

寝起きのあまり良くないレヴィは、起きるための刺激を求めて通常のレーシカの50倍くらいの酸っぱさとパチパチを入れていた。勿論、甘さは邪道である。

「うぇぇぇぇ(;´-`)」
「ちょっ、ちょっと和泉!ここで吐かないでっ!」
「って、おい大丈夫かよ」


変なところに入ったかくらいにしか思ってなかったレヴィが、少し焦った様子でたずねる。
「ざぐらーー。気持ち悪いーー!」 
「大丈夫なわけ、ないでしょう!?」
「和泉さん、吐き気どめよ」
「ありがとうございます」
アイリスから水とクスリを受けとる。

錠剤のようなまるっこいクスリを飲んですぐに、吐き気がおさまった。

吐き気どめと酸を中和させる成分が入ったレヴィのレーシカ対策用のクスリである。

「大丈夫?」
「はい。ありがとうございます。もう平気です」
「特製を人に渡さないでって、いつも言ってるでしょう?」
………………あっ
「悪い。和泉さんも、すまない。大丈夫か?」
「はい。せっかくいただいたのに、あの……ごめんなさい」
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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