セレス王女との謁見を無理矢理ねじ込んだ時間が、ほぼ朝イチのため時間短縮は必須だ。セルードなら、約1時間でグノーシス城につける。シフォンには悪いけど、ルーカスも闘技場に釘付けだろう。
布に乗ってフワフワと空を飛んでいるアイリスは、慎重に辺りを警戒している。雰囲気を感じとったのかセルードの警戒が1段階あがる。
特にいま襲われるという根拠はない。
けど、1年前のあの失態を繰り返す訳にはいかない。
安全策というのもあるが、ひらたく言えば1年前のトラウマから、レヴィもアイリスもまだ抜け出せないでいた。
街路樹に挟まれたサルサ街道を道なりに進んでいくと、遠目に西洋風のお城が見えてきた。グノーシス城まであと2キロメートル。
ここから先はクネクネとした道が続く。
極端に視界が悪くなることはないものの油断は禁物。
警戒しつつも、いい感じにセルードが風を切って駆け抜けていく。
数分後ーー。
城下町の入口が目の前にひろがる。アイリスは地面に布をゆっくり降ろしていき、レヴィはセルードから降りると咲良をエスコートしていた。
寝ている和泉の頬をペシペシと叩き、肩をもって前後にガシガシと揺さぶる。
「あぁーー!あんなところに『キノコの里山』がいっぱーーいっ!!」
咲良に思いっきり頭をはたかれた和泉が、頭を押さえてうずくまっている。
「起こさないで連れて来ちゃったからビックリするよね」
「……じゃなくて、あの私……ご迷惑おかけしました」
喉がカラカラだった和泉はレヴィからもらったそれを口一杯に含んだ。
口の中で、なにかものすごく酸っぱいナニカがスパークしている。
咲良が和泉の背中をさすり、キョトンとした顔のレヴィが見守っていた。
「寝起きには、やっぱこれに限るとか言ってるアレ?」
レーシカは、レモンスカッシュをハチミツで割ったような飲物で子供や女性に人気がある。レーシカそのままなら、何も問題はない。
問題はレヴィ特製なところにある。
寝起きのあまり良くないレヴィは、起きるための刺激を求めて通常のレーシカの50倍くらいの酸っぱさとパチパチを入れていた。勿論、甘さは邪道である。
変なところに入ったかくらいにしか思ってなかったレヴィが、少し焦った様子でたずねる。
アイリスから水とクスリを受けとる。
錠剤のようなまるっこいクスリを飲んですぐに、吐き気がおさまった。
吐き気どめと酸を中和させる成分が入ったレヴィのレーシカ対策用のクスリである。
「特製を人に渡さないでって、いつも言ってるでしょう?」
「はい。せっかくいただいたのに、あの……ごめんなさい」