レヴィ、アイリス、カイの3人は急襲されたアルティメット城に向かうため、地下室の魔方陣に急いでいた。事は一刻を争う。
最初の違和感はカギだった。
開いていたのだ。カギは厳重に管理され、マスターキーの他はルーカスとアイリスが1本づつもっている。アイリスのもつカギは、いまアイリスの手のなかだ。
だが、中から異様な魔物の気配がする。
1体や2体ではないーー。
モワァッとした熱気が気持ち悪い。
地下室の中は、足の踏み場がないくらいの勢いで増えていくモンスターハウスと化していた。魔方陣が開いている限り、無限に魔物が湧いてでる最悪なシステムに成り果てている。
狭い地下室の扉はレヴィとカイが並ぶと人や魔物は通れなかった。
そして通す訳にはいかなかった。通してしまえば、甚大な被害がでるのは避けられない。キリがないからだ。
謁見の間にいるアーノルドは強いが、魔方陣を閉じるのは無理だろう。
だが、こちらには幸いアイリスがいる。魔方陣を閉じる事は可能だ。
魔方陣が使えなくなるのは痛いが仕方ないだろう。
後のプラズマレインの準備段階である。
凝縮された雷雲が雷の電気を急速に蓄えていく。
よく言えば「万能型」
悪く言えば「器用貧乏」
それが、騎士団としてのカイの評価だ。
どちらかといえば剣を使った近接戦が得意だが、彼の剣技は『対ボス用』に特化しているため、ある程度数を減らさないと真価は発揮できない。
近接特化のレヴィと違い、魔法剣士に近い位置付けといえる。
狭いためにうまく逃げられない魔物の群れに、無詠唱のアイリスの手から次々と紡ぎ出される氷の矢が、容赦なく降り注ぐ。
魔物の絶対数を減らすため、範囲攻撃を使ってガンガンいく。
こんなところで足止めをくってる場合ではない。
満身創痍で助けを求めにきたアルティメット兵士の働きと思いをムダにしたくはない。レヴィ達にとっても他人事ではない。あの兵士の姿は、明日の自分かもしれないのだ。
幸いなのは、ほぼ雑魚なことと部屋じたいがセマイことである。
魔物は、断末魔をあげるとその数を減らしていく。
目の前の魔物を片付け中に足を踏み入れると、アイリスは魔物のいない手近なところから魔方陣を閉じる。位置と情報はわかっている。あとは、タイミングの問題だった。
3匹の狼みたいなものが、次々と魔方陣から湧いてくる。
レヴィは、大剣を上段に構え直した。
高い電圧の力を剣にのせ、中距離から広範囲に一気に力を開放する。
運が良ければ麻痺効果もつくカイの得意技だ。
狼達のスピードが下がった。
力もそうだが素早さの速いものが多く、数も多い。
ずっと狼のターンなんて事態は、避けたいところだ。
氷とパワーを大剣に螺旋状にまとわせると、狼達の足を目標に大剣を振りおろした。狼達の足元を氷柱が貫く。
氷の膜が、レヴィ、アイリス、カイをつつむ。
3人の防御力があがった。
狼達に3角形の軌跡が重なり、3匹分の闘気が真ん中の上空で大きくなっていく。よく見ると前列真ん中に1匹、左右の斜めに1匹ずつ、3角形の陣形を組んでいる。
アイリスの放った光の球体がレヴィ達をフワリと包み込んだのと、リーダーらしき前列の狼が、3人分の闘気がたまった大きな球体をぶん投げたのは、ほぼ同時だった。
レヴィ達をつつむ光の球体の外側でデルタエンドとの力の衝突が起こり、その中心で激しくスパークしている。
2人合わせて攻守アップの補助呪文をアイリスにかける。
ハッキリ言ってアイリスが倒れたらレヴィ達の負けは確定だ。
レヴィやカイに魔方陣の操作はできない。
アイリスの頑張りと補助呪文効果で徐々に均衡が崩れ、デルタエンドを押し返し始めた時だった。
もう1組の3匹が、デルタエンドを早々に完成させた。