地下 魔方陣の攻防1

文字数 1,823文字

レヴィ、アイリス、カイの3人は急襲されたアルティメット城に向かうため、地下室の魔方陣に急いでいた。事は一刻を争う。
最初の違和感はカギだった。

開いていたのだ。カギは厳重に管理され、マスターキーの他はルーカスとアイリスが1本づつもっている。アイリスのもつカギは、いまアイリスの手のなかだ。

「誰かいるのか?」


                                                       返事はない。
だが、中から異様な魔物の気配がする。

1体や2体ではないーー。

モワァッとした熱気が気持ち悪い。

地下室の中は、足の踏み場がないくらいの勢いで増えていくモンスターハウスと化していた。魔方陣が開いている限り、無限に魔物が湧いてでる最悪なシステムに成り果てている。
「……んだよ、これ」
「魔方陣から涌き出ているようね」
「魔方陣を閉じながら片付けるぞ!」
「了解」
狭い地下室の扉はレヴィとカイが並ぶと人や魔物は通れなかった。

そして通す訳にはいかなかった。通してしまえば、甚大な被害がでるのは避けられない。キリがないからだ。

謁見の間にいるアーノルドは強いが、魔方陣を閉じるのは無理だろう。

だが、こちらには幸いアイリスがいる。魔方陣を閉じる事は可能だ。

魔方陣が使えなくなるのは痛いが仕方ないだろう。

「サンダークラウド」
後のプラズマレインの準備段階である。

凝縮された雷雲が雷の電気を急速に蓄えていく。

よく言えば「万能型」

悪く言えば「器用貧乏」

それが、騎士団としてのカイの評価だ。


どちらかといえば剣を使った近接戦が得意だが、彼の剣技は『対ボス用』に特化しているため、ある程度数を減らさないと真価は発揮できない。

近接特化のレヴィと違い、魔法剣士に近い位置付けといえる。

「フローズンクラッシュ」
剣圧と無数の氷柱が直線上の魔物を直撃する。
「アイスレイン」
狭いためにうまく逃げられない魔物の群れに、無詠唱のアイリスの手から次々と紡ぎ出される氷の矢が、容赦なく降り注ぐ。
魔物の絶対数を減らすため、範囲攻撃を使ってガンガンいく。

こんなところで足止めをくってる場合ではない。

満身創痍で助けを求めにきたアルティメット兵士の働きと思いをムダにしたくはない。レヴィ達にとっても他人事ではない。あの兵士の姿は、明日の自分かもしれないのだ。


幸いなのは、ほぼ雑魚なことと部屋じたいがセマイことである。

魔物は、断末魔をあげるとその数を減らしていく。

目の前の魔物を片付け中に足を踏み入れると、アイリスは魔物のいない手近なところから魔方陣を閉じる。位置と情報はわかっている。あとは、タイミングの問題だった。
グルルルルル!
3匹の狼みたいなものが、次々と魔方陣から湧いてくる。

レヴィは、大剣を上段に構え直した。

「プラズマレイン」
高い電圧の力を剣にのせ、中距離から広範囲に一気に力を開放する。

運が良ければ麻痺効果もつくカイの得意技だ。

「スピードブレイク」
狼達のスピードが下がった。

力もそうだが素早さの速いものが多く、数も多い。

ずっと狼のターンなんて事態は、避けたいところだ。

「フローズンクラッシュ」
氷とパワーを大剣に螺旋状にまとわせると、狼達の足を目標に大剣を振りおろした。狼達の足元を氷柱が貫く。
「アイスウォール」
氷の膜が、レヴィ、アイリス、カイをつつむ。

3人の防御力があがった。

「デルタ・エンド」
狼達に3角形の軌跡が重なり、3匹分の闘気が真ん中の上空で大きくなっていく。よく見ると前列真ん中に1匹、左右の斜めに1匹ずつ、3角形の陣形を組んでいる。
「連携?」

(ウソだろ?)

「くるぞ」
「プロテクト・フォース」
「グルルルルル……!!」
アイリスの放った光の球体がレヴィ達をフワリと包み込んだのと、リーダーらしき前列の狼が、3人分の闘気がたまった大きな球体をぶん投げたのは、ほぼ同時だった。
レヴィ達をつつむ光の球体の外側でデルタエンドとの力の衝突が起こり、その中心で激しくスパークしている。
「ヒートアップ」
「プロテクト・シールド」
2人合わせて攻守アップの補助呪文をアイリスにかける。

ハッキリ言ってアイリスが倒れたらレヴィ達の負けは確定だ。

レヴィやカイに魔方陣の操作はできない。

アイリスの頑張りと補助呪文効果で徐々に均衡が崩れ、デルタエンドを押し返し始めた時だった。
「デルタエンド」
もう1組の3匹が、デルタエンドを早々に完成させた。
!!
「グルアアアアアアア!!」
やっぱり、力任せにぶん投げる。
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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