日替り定食(閑話休題)

文字数 1,630文字

晩ごはんを食べにきた4人。

食べにきたといっても、宿屋の1階にある食堂におりてきただけだったが……。

「今日はシーラが日替りで出るらしいな」
「シーラが? じゃぁ、私も日替りにしようかなぁ」
「いつもの森の贈り物は、いいのかよ」
「えぇ、それはいつでも食べられるもの」
「あの……シーラって?」
「あっ、悪い。この辺りの海でとれる中型の魚だ」
「潮の関係でね、天然ものは今から3ヶ月くらいしか出回らないのよ」
「期間限定ですか?」
「あぁ。氷室で保管したものもあるんだが、味がな」
「私も、日替りにしますっ!!」
目をキラキラさせた和泉がこぶしを握りながら大きな声で意思表示する。
「限定はズルイよね。私も、日替りにします」
「そうね、いま食べなきゃって思っちゃうわね」
アイリスの言葉に全員がうなづいた。

期間限定は異次元でも魅力的な言葉のようだ。

「ご注文は、お決まりでしょうか?」
「日替り定食4つ、お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「は~い」
「シーラって、どんなお魚なんですか?」
「ん?あぁ、見た方が早いな」
悪戯っぽく笑うレヴィに同調するようにアイリスがうなづく。
「そうなんだ。楽しみです~」
「お待たせいたしました。日替り定食でございます」
「おっ、きたきた」
「シーラが美味しそうね」
「あぁ」
言いながら上機嫌でシーラを次々に口に運んでいく。
(これ、お魚?)
(……想像と違いすぎる)
彼女達の目の前には、豪快に素揚げにされたシーラが丼に似た深い器から、豪快にはみ出している。はみ出しているだけなら、テレビでもよく見る。ギャル曽根などがキレイに食べてたりするのもテレビ映えし、そこに対しての免疫に問題はない。


しかし、問題はそこではないーー!

てっぷりとしたふくよかな外見。

ギラギラした大きな眼。

星形のような斑点がお腹側にラインを描くようにあり、背中を貫くようなヒレのようなものが生えている。

魚の両側にはムカデのような足(?)があり、その足がダラーンと下を向いて、その存在を主張している。
「やっぱ初めて見たらビックリするよな」
「知ってて黙ってたなんてヒドイですよ~」
「悪い、悪い。新鮮な反応を見てたら、ついな」
「子供のころを思い出してしまって……ごめんなさいね」
(………………食べれるの?これ)
「む~」
「見た目はアレだが味はクセがなくて食べやすいから、思いきって食ってみろよ」
「眼をつぶって食べちゃえば平気よ」
「わ、わかりました」

(レヴィさん達食べてたし大丈夫よね)

眼をつぶってシーラの身をとると思いきって、ひとくち口の中にいれる。
「おいしい!さっぱりしてて、少しコリコリする。鶏の軟骨みたい」

(鶏の軟骨?)

基本的に肉や魚のでない咲良には鶏の軟骨がわからなかった。

女子高生のいる食卓に鶏の軟骨が出るか、というのも微妙な問題なのだがーー。

「だろっ。このコリコリっとしたところがクセになるんだよなぁ」
(自分で頼んだんだし、食べないっていうのは失礼よね)
1大決心をしてシーラに向き合う。
ミーーーーーターーーーーーナーーーーーーー!!
とでも言いたげなシーラの大きな目玉と目が合った。
その殺傷力に思わずひるむ咲良。
「咲良さんファイト!」
「はっ、はい。ありがとうございます」
眼をつぶって一気にシーラの身を口に運ぶ。
「さっぱりして思ってたより食べやすいですね」
「良かったわ」
「おいしかったね、咲良」
「うん」
「お魚ってみんな足があるんですか?」
「足?」
「あ、あの両側の……」
「大丈夫。普通のお魚にはついてないわ。シーラは深海魚だから」
「アレで砂の上を移動したり、砂に潜ったりするんだ」
「良かった~」
「全部あったら、どうしようかと思いました」
ハイタッチで喜びをわかちあう和泉と咲良。
(そこまでイヤだったのか。悪いことしたかな)
「これ風呂代な」
「お風呂?」
「ええ、ここを出て右手に曲がってつきあたりに大浴場があるのよ」
「助かります」
「22時~25時の間だけしか入れないから注意してね」
2人:「はい」
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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