ピラー草原4 晩ごはんとお薬と

文字数 1,903文字

「ふんふんふ~ん♪」
「魔力の枯渇には、やっぱりこれだよなぁ」
ちょっと辛いが効果は120%カンペキだ(レヴィ比)

辛さで汗をかけば熱も下がり一石二鳥を狙える料理。しかもウマイ。

レヴィの中では、誰にだしても恥ずかしくない料理ナンバーワンだったりする。これを食べればあの娘も明日には回復するだろう。

いい感じに煮たったらトルンのさやをドサッと……
トルンのさやを豪快に10本くらいバサッとつかむと鍋に投げ入れようとした時だった。
「レヴィ!弱ってる子達になに食べさせようとしてるのよ!!」
「何って万能食材カルーンの実とダルーンの卵のスープだK……」
滋養強壮にいいダルーンの卵と魔力の回復に定評のあるカルーンの実は料理の組み合わせとしての相性もよく、魔力回復薬の材料としてもよく使われている。
「そんな激辛食べれるのレヴィだけです!」
ちなみにトルンのさや1グラムが唐辛子の10倍の辛さ。

サヤインゲンに似た形のオレンジ色の細長いさやは熱を加えるとピンク色になり、辛さが増すほどショッキングピンクに近くなる。レヴィの掴んだそれをそのまま入れると黄金色のスープが眼がチカチカしそうな濃いショッキングピンクに染まる。

「んなことねーよ。騎士団の合宿の時だって……」
「それは、あなたが「上司」だからです!」
「………………」
「わかった。味付けはまだだから好きにしろよ」
長い付き合いで、このあとの展開は予想できたので引くことにした。

家の話まで、でてきたら最悪だ。気が滅入る。

アイリスは料理もうまいし役得だ。

うん、きっとそうだ。そうに違いない。

「2人とも、ご飯よ」
「ありがとうございます」
コクッ
「どういたしまして。ふふ、やっぱり女の子は、いいわね。作りがいがあって(ため息)お口にあうといいけど」
和泉と咲良がスープを一口飲むと、

和泉は絶句してスプーンが止まり、

咲良は、大粒の涙を流してスプーンが止まった。

「合わなかった?」
「ごめんなさい、違うんです…。すごく優しい味で……美味しいです。」
戸惑うように咲良をみると静かにうなずく。
「お姉さんは何も悪くないんだけど……あ、あの…………」
「はっきり言ってくれて大丈夫よ。怒ったりしないわ」
「咲良の……お母さんの味に、その…………似てるんです。咲良が熱を出した時に…………あ、あの……ごめんなさい。失礼………………ですよね……私」
「そうだったの。話してくれてありがとう。かえって、つらい思いさせてしまったわね」
「いえ、こちらこそ」
コクッコクッ
「わかった。俺が作ろう」
「トルンのさやはダメよ!!」
「……あぁ、騎士団の病人食なら問題ないだろう?(味しねーけど)」


数分後

「クソまずいから覚悟して食えよ」
「素材の味を最大限大切にしてる、と言って下さいな」
「どうにもマズイと思ったら、ここにある香辛料をぶちこむt……」
レヴィの手には、黒い液体と赤い液体の入った小さなビンが2つ握られていた。
「へぇ~、レヴィそんなことしてたんですか?これは没収です!!」

(治りが遅いはずだわ)

「ウワアアアアアアアア、俺の生命線がぁ!!」
「知りません!!」
1じかん後
回復薬を飲んでおくように言われた2人だったが、まだ飲めずにいた。

多少の苦さなら「良薬口に苦し」という言葉通りだが、生半可な苦さではなかった。咲良でさえ、躊躇する苦さだ。

舌がヒリヒリする。そして今、飲んだか監視にきたらしいアイリスに思いっきりにらまれている。

「……あの……私、先ほどいただいた病人食でスッゴク元気になったので大丈夫です」

(ごめん、咲良)

「………………」

(和泉の裏切者ーー!!)

Zzz
咲良の隣では、アイリスにかけてもらった毛布の中で丸まったミューが静かに寝息をたてていた。
「そ~ぉ、私の出す薬が飲めないと?」
顔は笑顔なのに眼がまったく笑っていない。

ひんやりとした空気が辺りをおおっていた。室温もかなり下がりアイリスの周りには氷の結晶が舞いはじめている。

ドラゴンの角の黒焼きとエルフの薬草、アイダルシンの肝を材料とするこの薬は、効き目は抜群だが味と臭いが恐ろしくヒドイ。


そのため騎士団や王宮魔術師達の評判も悪く、いつも飲ませるのは、最終的に力づくだったりする。異世界の勇者相手にとは思わなかったが、咲良をこのままの状態にしておくことは、心がとがめた。

(召喚の失敗ーーーー。


それが今の状況に繋がっている。

だからこそ、悪役になってでも……)


「アイリス、その辺にしておけ。あんたらも飲むよな?」

(今なら間に合うから、謝って一気に飲んじまえ)


「……ごめんなさい」
「ーーーー!」
コクコクとうなずくと2人同時に薬のビンに手を伸ばすと、覚悟を決めたように一気に飲んだ。
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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