初めての謁見(勇者の役割)

文字数 2,163文字

…………
「セレスさま。目を見てお話したいです。顔をあげてください」
セレスは、目の前の少女ーー和泉の言動に新鮮な驚きを覚えていた。

公式な場で深々と頭をさげている自分と視線を合わせるために膝まずいてニコッと笑いかけたのは、和泉が初めてである。

プライベートでは、あった。

まだ幼かったころ、ジュリ兄と遊んでいてセレスが転んだ時ーー!

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8年前

グノーシス城  中庭

~~~~~~!

(泣かないもん。セレス、お姉ちゃんだもん)

「おっ、今日は泣かないんだな。偉い、偉い」
(8歳しか違わないのに子供扱いしないでよ!)
泣かないと決めたものの痛いものは痛いのです。


「そうよ。もうレディで、お姉ちゃんなんだから……!」
だから、これは

せいいっぱいの強がりなのです。

ジュリ兄にふさわしいレディになるんです!

そのためなら、こんな痛みなんて……

痛みに耐えて、うつむいていると

突然、目の前にジュリ兄の笑顔があった。


「いたいの いたいの とんでけーー!!」
もう痛くないだろというように、セレスの頭を軽くポンポンする。
(ジュリ兄……)


ジュリ兄に頭ポンポンされるのは嫌いじゃない。

居心地のよさに思わず、ぼぉっとする。

!!
違う、違うわ。

今までと同じじゃダメなのよ!

「また、子供扱いしたーー!」
「悪い、悪い」
いちおう謝っては、いるもののジュリ兄の顔には、


いや、だって子供だろ?


とデカデカと書いてあったーー!

「……ジュリ兄なんてダイッキライ!」
□■□■□■□■  □■

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「セレスさま、和泉さんに悪気は……」
(和泉)
!?

(あれっ?もしかして地雷ふんだ?)

「ごめんなさい。和泉さんを見てたら昔のことを思い出して……。公務中にぼぉっとするなんてダメね」
「昔のことでございますか?」
「ええ。まだ幼かったジュリアスお兄さまが1度だけ、あんなふうにおまじないをかけてくれたのです」
(ジュリアスさま)
(ジュリアスさまって王子さまだったんだ)
(セレスさま……)
………………。
ジュリ兄は、それを知ったお父様にひどく叱られて……。

後にも先にも、それ1度きりだと思っていたのに

「申し訳ありません。作法を彼女達に説明していなかった私の落ち度です」
「大丈夫よ、レヴィ。和泉さんをなんとかしようという話ではないわ」
「セレスさま……ありがとうございます」
(……これは、本格的に注意しなければいけませんな)
「セレスさま、レヴィさん。あの……失礼なことをしてしまったみたいで……ごめんなさいっ!!」
(説明責任を果たさず、女性にこのような想いをさせるなど、あってはならぬことですぞ!!)
「和泉さんは何も悪くないわ。むしろ感謝してますのよ」
!?
「セレスさま。お決めになられたのですね」
……………………。
「ええ、ふっきれたわ」
ジュリアスお兄さま、生きていらっしゃるなら……私は…………!
「でも、他ではなさらないでくださいね。ここでは目上の方や公式の場で下から顔を覗きこむのは、非礼とされているわ」
「はいっ。教えてくださって、ありがとうございます」
「勇者さま……。いえ、和泉さん、咲良さん、私に…………いえ、この国にお力をお貸しください」
………………
……………………
明らかに戸惑った様子の2人が、顔をみあわせる。
「……私達には、ひとつの国を救うような力なんてないですよ」
「ここまでだって、レヴィさんとアイリスさんがいなかったら来れなかったと思います」
普通の女子高生よりは、気を感じとる能力をもつ和泉と純心寺の後取りとして厳しい修行をしてきた咲良には、力があるかもしれない。


でも修行で身につけた力は、仏の力を貸りるためのもの。

この世界で使えないことは証明済みだ。結界符も今はもうない。

王国に危機が迫りしとき

異世界より舞い降りし2人の少女ーー

後に勇者と呼ばれる2人は、

この国の守護神であらせられる聖獣さまとともに

魔王により、この国に蔓延せし闇と混沌を

聖剣を持ちて撃ち破るであろう。

(!!アイリスさんの言っていた……)
「この国に古くから伝わる伝説です」
「私達、聖剣なんてもってませんよ」
「承知しております。聖剣はかつての勇者さまが、平和な世界には必要ないと封印されたと伝え聞いています」
「聖剣の封印を解いて、魔王を倒してほしいということですか?」
「ええ、ものすごく短く端的に言うなら……」
(ねぇ、咲良。端的ってなに?)
咲良の服の袖をツンツンと引っ張ると小声できく。
(要点だけを言うことよ)
(そっか、ありがと。咲良)
(端的じゃない部分の方が大事そうだけど……)
レヴィさんやアイリスさんの態度も、セレスさまの意向を汲んでのものということなの?
「単純に魔王を倒すのなら、レヴィさんやアイリスさんのような強い方なら、大丈夫ではありませんか?」
挑発スレスレなのは承知の上である。

セレスさまも、レヴィさんもアイリスさんも、大事なことを隠したまま和泉と私に勇者としての役割を期待している。


私だけならともかく、和泉も一緒なのにそんな条件のめないーー!!
「……咲良さん」
「……聖剣は、異世界の勇者さまにしか扱えないのです」
(咲良っ、マズイよ。もう少しオブラートに……)
ツンツンと袖を引っ張る。
(オブラートに包んだら、このままナァナァになっちゃうわよ!!)

(……うっ)

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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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