火事場のなんとかと真紅の森

文字数 1,678文字

「宿泊向きではないけど」
「…………そうだな」
(なんなの?この間は!)
(魔術研究所って、いったい……)
最悪、そこに泊まろうというアイリスとレヴィの会話に不安になった和泉と咲良は、顔を見合わせると絶対に今日中にサルサの街にたどり着こうと強く思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇

◇◆◇◆◇◆

「だっ、大丈夫です!6~7時間とか、よっ余裕ですよ」
「そうね、私達なら余裕よね」
「早く行きましょ。レヴィさん、アイリスさんも」
「おっ、おう。って引っ張んなって!」


「ちょっ、ちょっと……和泉さん?」
「相変わらずね、和泉」
「さっ、咲良さん。笑ってな……で……とか……してーー!」
「み、道……ない……!」
「大丈夫です。1本道ですから」

めの前には、一本の太い街道ピラー街道がまっすぐに伸びている

両手にレヴィとアイリスの手をつかんで、半ば引きずっていく和泉。
(大丈夫じゃねーよ)
レヴィは、すぅーっと息を吸うと腹の底から声をだした。
「とまれっ!!」
「はいっ!」
思わず返事をしてとまる。
「っと、とまった」
「道わかんねーだろ。そっちはサルサの街とは逆方向だ」
「!ごめんなさい」
「私も、ごめんなさい」
「大丈夫だ。怒ってるわけじゃない。大きな声だして悪かったな」
透明な液体の入った入れ物をポンポンと投げてよこすレヴィ。
「水分補給。ただの水だが天然水だから旨いぞ」
「休憩していきましょう」
パタパタと服についた汚れをはたきながら休憩するアイリスとレヴィ。

その前で、受け取った水にお礼を言うとゴクゴクと水を飲む和泉と咲良。

「和泉さん見かけによらず、すごい力ね」
「ふだんは、そうでもないんですけど……」
「火事場のなんとかってやつよね」
「火事場の?」
「なんとか?」
「追いこまれるとふだんでは考えられない力がだせるって言葉ですけど、言いません?」
「言わないわね」

「言わないな」

「不思議ですね。言葉は苦もなく通じるのに」

(やっぱり、ここは異世界なんだなぁ)

「そうね。だいたいのことは通じてるわね」
「そろそろ行くか」
「えぇ」
街道沿いを2時間ほど歩いたところに小さな看板があった。

ここから、少し街道を外れた南に国立魔術研究所があるらしい。

「今日おやっさんは?」
「(予定通りなら)外交のハズだけど」
「そうか」
小声で会話を進めるアイリスたち。
「いないといいんだがーー」
「……そうね。ちょっと刺激が強すぎるわね」
散々な言われようだけど魔術研究所の主である。
「ここからは森に入るから注意して進みましょう」
2人「はい」
森の木々の間から陽の光が射し込んで森林浴に来たと言っても通じてしまいそうな雰囲気の森である。

その森の奥に一軒家があり、そこが目指す国立魔術研究所だ。

木々の間をぬって数百メートル進むと少し開けたところにでた。

「はぁい~アイリス、レヴィちゃん」
「おやっさん?」
「父上?!なぜここに……!」
「ちち……」
「うえー?!」
目の前にいるのは、ゴシック風に近いフリルとリボンをふんだんに使った服に後ろにまとめたオダンゴを真紅のリボンでまとめた綺麗な女性に見える。


「あら~、可愛い女の子も一緒なのね~。レヴィちゃんってば、すみにおけないわね~、もう。お姉さん、妬けちゃうわぁ」
「誰がお姉さんですか?誰が」
「もちろん、あ・た・し・よ。あ・た・し」
人差し指を顔の前で左右にリズミカルに動かしながら力説する自称お姉さん。
ーーーーーーー
ーーーーーーー
「……今日はアルティメット国の外相と懇談会では?」
「勇者たちが来るおもしろい日に懇談会なんてチマチマやってられないわよ」
「ほんとブレナイっすね」
「モチのロンよ」
「セレス王女が聞いたら悲しみますよ」
「なぁに言ってるの?アイリス。条約なら取りつけたわよ。王女の御心(みこころ)のままに」
「……申し訳ありません。父上」
「ふふっ、いいのよ~、アイリスちゃん」
「さすが仕事が速いですね」
「あら~、わかってるじゃな~い。レヴィちゃん」

(さすが未来の婿よね~)

「ささっ、こんなところで立ち話もなんだから研究所にいきましょっ。お昼の用意もできてるのよ~」
そう言いつつ全員を問答無用で魔方陣に突っ込んだ。
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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