召喚パニック

文字数 1,981文字

「………………ウソでしょう?」
グノーシス城王宮魔術師アイリスは、相原和泉と小泉咲良の2人を召喚したグノーシス城地下室にある魔方陣の前で途方にくれていた。召喚したことにより魔方陣はその輝きを失っており召喚されたことは間違いない。


ただ、召喚した場所が問題だった。


本来なら、この魔方陣の前に2人は召喚されるはずだった。

そしてアイリスが事情を説明し、現在王国を治めている王家唯一の生き残り、セレスの待つ謁見の間まで案内する、それが本来の手順だった。

「よりによって風の迷宮付近なんて…………ありえない」
風の迷宮ーー

ピラー草原の西に位置し、風の遺跡へと至る迷宮。

主に王国騎士団や王宮魔術師の訓練や試練などに用いられる曰く付きの迷宮。奥には風の宝珠がありグノーシス王国の管理下にあったが、最近の危機的な状況によって手が回らず、立ち入り禁止の措置をとってはいるものの魔物が徘徊する危険な地となっている。

(なんてことなの?)

2人は無事だろうか?勇者とはいえ、いきなりあんなところにーー!


「私のせいだ。座標軸が違ったのか、何かの原因でずれたのかはわからない。でも、現実に2人は……」
急ぎ、謁見の間へと向かうアイリスの胸中には焦りと罪悪感が同居していた
アイリスは召喚がはじめてではない。

現場への急行が求められる騎士団や魔術師の仕事では、座標軸と召喚の魔方陣を使うことがあった。この世界に限ってだけど。


王国の仕事は、座標軸と呼ばれるアルファベッドと数字で管理されている。

座標軸を召喚魔方陣に組み込むことで目的の場所にワープする仕組みになっていた。

「王宮魔術師アイリス参りました」
謁見の間へと続くドアを軽くノックする。
「アイリス、お待ちしてました。どうぞ入って」
声をかけたのはグノーシス王国弟273代、第3王女セレス・グノーシス。

13歳という年齢もあり幼さが残り王位継承権から、もっとも遠いところにいた彼女は、懸命に王国を立て直そうとしていた。

その1つが、この世界を救うという2人の勇者の召喚であった。

「失礼いたします」
中央へと進むアイリスとアイリスの後ろに続くはずの2人の勇者の姿がないことに驚きを隠せないセレスと王国騎士団団長レヴィ・グレイスの姿があった。
「アイリス、勇者達はどうされたのですか?」
「セレスさま、申し訳ございません。……勇者さま方を召喚できたものの風の迷宮付近に召喚されてしまったようです」 
焦燥感と罪悪感に支配されそうな気持ちをなんとか抑え、ひざまづいた姿勢のまま深々と頭をさげる。


「……!!」
風の迷宮!!

驚愕と同期であるアイリスへの心配が胸の中にひろがる。レヴィは、かすかに震える彼女の両肩をみつめていた。

(風の迷宮!?)

「レヴィ、アイリス。勇者さま方のところにすぐに向かってください」

「はっ」


中央付近でひざまづき深々と頭をさげた姿勢のまま固まっているアイリスの側に方膝を立てて、気遣うように耳元で優しく声をかけた。
「アイリス、立てるか?勇者さまを一緒に迎えに行くぞ」
謁見の間を出た2人は、魔方陣のある地下室へと向かっていた。

魔方陣を再起動し、異世界から召喚された2人の勇者を探すためだ。それを使い近くまでワープする。


何ももたず、この世界の何も知らない状態で魔物が多く徘徊するところにいる勇者達。陽が落ちる前に見つけたい。

「………………レヴィ……私……ごめんなさい…ごめんなさい……」
謁見の間から出たことで張りつめていた糸がきれたのかアイリスの眼から大粒の涙が落ちた。震える肩を優しく抱きしめる。


「大丈夫、大丈夫だ」
「……レ…………ヴィ………………」
あふれる感情を抑えることができず、あふれる涙をとめられない。

背中を優しくトントンされながらレヴィの胸に顔をうずめていた。

「あれは……ヴィとアイリスちゃん?」
レヴィの斜めうしろの柱の陰に悪い笑顔を浮かべる王国騎士団副団長カイルは、見物をきめこんだ。おもしろそうだからという理由でーー。
アイリスが泣き止んだ頃を見計らい耳元でやわらかく声をかける。

その様子をニヤニヤとカイルが見ていた。


「俺も一緒に行く。アイリスも勇者も必ず俺が護る。だから……」
そんな顔するな。

そういいかけてやめた。

「だから……ついてきてくれるか?」
「……はい」
「公衆の面前でプロポーズかい?ヴィ団長」
「なっ!!……なななっ…………!」
顔を真っ赤にしてうつむいてしまうアイリス。


「気持ちの悪いニヤニヤ笑いをやめろ!カイル」
「はぁ。お前ら、もうくっついちゃえよ」

(…そうしてくれた方が、諦められる……かもしれねぇからな)

「……そろそろ見回りの時間じゃないか?」
「あぁ。クルトを待ってるんだ」
「……そうか。勅命でしばらく留守にする。留守の間よろしく頼む」
「了解」
「変な噂、広めるなよ」
「な~んのことかなぁ」

(こんなおもしろいこと、皆にも教えてやらないとな)

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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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