ルーカスは、レヴィの肩に手をまわすと耳元でささやくように問いかけた。
肘でウリウリと小突きつつ悪戯っぽく笑う。
父親というより悪友のノリに近い。
一瞬絶句するレヴィと恥ずかしさにうつむくアイリス。
目の前の2人の恋愛に興味をひかれる和泉と咲良。
「ちょっ、ちょっとレヴィちゃん。あんたのABCって、どうなってんのよ?」
「? Aが手を繋ぐでBが2人でデート、Cがキスだろ?」
「そうかもね。アイリスさんといい感じだと思ったんだけどな」
兄貴のところに遊びに来ていたカイが唐突に言い出した。
「Aが手を繋ぐ、Bが2人だけでデート、Cがキスだ」
内容を言ったのが、カイではなく兄貴だったから13年信じて疑わなかった。
「レヴィちゃん、それからかわれたんじゃないかしら~」
(いや、おやっさんにからかわれてるのかもしれない)
今までの経験上おやっさんの話は話し半分に聞く必要がある。
疑心暗鬼になったレヴィは、この場で1番信用できるアイリスを見ると可哀想な子をみる眼で見ているアイリスと目があった。
13年間の常識が覆されうちひしがれるレヴィ。
アイリスが声をかけようとするが、心ここにあらずなレヴィにかけようとした言葉ごと呑み込んだ。
少しの安心と残念さが入り交じる複雑な心境をごまかすように、ルーカスは和泉達に声をかけた。
「あら~、ありがとう和泉ちゃん。それはレイニーのスープよ。お口にあったようで嬉しいわ~」
見よう見まねで、細長いナンみたいな生地に大皿からとったお肉や野菜などをクルクルと巻いていく。
手巻き寿司のナンバージョン?みたいな料理だ。
「このお肉もサッパリして美味しいです。なんてお肉なんですか?」
「咲良ちゃん、世の中にはね、知らない方がいいことってあるのよ~」
上機嫌でレイニーのスープを飲んでいた和泉は、変なところに入ったのか咳き込んでいる。
「大丈夫。よく料理に使われるダルーンって鳥のお肉よ」
「な~によ、シャレじゃな~い」
(アイリスちゃんってば、まじめなんだから……)
本気で怒っているアイリスにあっさり白旗をあげる。
父親という生き物は娘には弱いらしい。
「ごめんなさい。2人が可愛かったから、つい調子にのってしまったわ」
しかしここで引き下がらないのが、ルーカスのルーカスたる所以である。
「ところで和泉ちゃん達の恋のABCって、どんな感じかしら~?」
いつもの恋話なら先輩のかっこよさも含めて、そのノロケいつまで続くのよって位に話続けられる和泉だが、話そうとしてここが手の届かない場所なことも強くおもいださせた。
その様子を言いたくないことなのだろうととったアイリスが割って入った。
「わかったわよ~。じゃぁアイリスちゃんのでいいわ~(・ω
遠い眼をして、まだ心ここにあらず状態のレヴィがいた。
「父上、私達セレスさまの勅命の途中で、今日中にサルサの街n……」
「大事ないわよ~、アレを使えばサルサの街まで一瞬よ~」
ルーカスの指差した先にはサルサの街に着く魔方陣があった。
客人のためのゲストルームやダイニング周辺には、事故防止のため一切ないが、そこから外れると魔方陣を使って移動するシステムになっている。グノーシス城の魔方陣は修理中で使えないのが痛いが、宮廷魔術師長ルーカスの造る魔方陣の正確さは、有名である。
イヤなことを思い出したアイリスの肩はプルプルと震えていた。
1度だけ使わせてもらったサルサの街行きの魔方陣は、問答無用で闘技場の決勝戦にワープし、訳のわからないまま決勝戦を戦うことになった。勇者さまのいる今そんなことは、絶対に避けなければならない。
「あっらー‼よくわかったわね、アイリスちゃん。目指せ、連勝よ~‼」
レヴィ、和泉、咲良の3人と自分に転移魔法をかける。
それぞれから白銀の光がまっすぐに上にのびていく。
おもしろいものを見たルーカスは、おもしろそうに笑った。