恋のABC

文字数 2,211文字

ルーカスは、レヴィの肩に手をまわすと耳元でささやくように問いかけた。
「もうキスはしたのかしら~?」
肘でウリウリと小突きつつ悪戯っぽく笑う。

父親というより悪友のノリに近い。

「なっ!?」
(もう、何を言い出すのよ)
一瞬絶句するレヴィと恥ずかしさにうつむくアイリス。

目の前の2人の恋愛に興味をひかれる和泉と咲良。

「……俺達はまだCなんて……!」
!?
「異世界だと恋愛事情も違うのかなぁ、ねっ咲良」
「異世界のABCって、ちょっと興味あるよね」
「ちょっ、ちょっとレヴィちゃん。あんたのABCって、どうなってんのよ?」
「? Aが手を繋ぐでBが2人でデート、Cがキスだろ?」
「違うわよ~。Aがキス、Bが胸まで、CはHよ」
!?
(……ダメね、これは)
「レヴィさんって恋愛に興味ないのかなぁ」
小声で咲良に問いかける。
「そうかもね。アイリスさんといい感じだと思ったんだけどな」
「……ウソだろ、だって兄貴とカイが……」
■□■□■□■□■□■

□■□■□■□■□

13年前ーー
「ヴィ、恋のABCって知ってるか?」
兄貴のところに遊びに来ていたカイが唐突に言い出した。
「……恋のABC?」
「Aが手を繋ぐ、Bが2人だけでデート、Cがキスだ」
内容を言ったのが、カイではなく兄貴だったから13年信じて疑わなかった。
□■□■□■□■□■□■□■

■□■□■□■□■□

「レヴィちゃん、それからかわれたんじゃないかしら~」
(いや、おやっさんにからかわれてるのかもしれない)
今までの経験上おやっさんの話は話し半分に聞く必要がある。

疑心暗鬼になったレヴィは、この場で1番信用できるアイリスを見ると可哀想な子をみる眼で見ているアイリスと目があった。

「……そんな」
13年間の常識が覆されうちひしがれるレヴィ。

アイリスが声をかけようとするが、心ここにあらずなレヴィにかけようとした言葉ごと呑み込んだ。

(でも、この様子なら心配なさそうね)
少しの安心と残念さが入り交じる複雑な心境をごまかすように、ルーカスは和泉達に声をかけた。
「お料理は、どおかしら~?」
「このスープすっごく美味しいですね」
「あら~、ありがとう和泉ちゃん。それはレイニーのスープよ。お口にあったようで嬉しいわ~」
「レイニーのスープ。可愛い名前ですね」
見よう見まねで、細長いナンみたいな生地に大皿からとったお肉や野菜などをクルクルと巻いていく。

手巻き寿司のナンバージョン?みたいな料理だ。

「このお肉もサッパリして美味しいです。なんてお肉なんですか?」
「咲良ちゃん、世の中にはね、知らない方がいいことってあるのよ~」
「えっ?」
(なんのお肉なのよ、これ!?)
「ゴホゴホッ」
上機嫌でレイニーのスープを飲んでいた和泉は、変なところに入ったのか咳き込んでいる。
「父上っ!!」
「大丈夫。よく料理に使われるダルーンって鳥のお肉よ」
アイリスの言葉に明らかにホッとする和泉と咲良。
「な~によ、シャレじゃな~い」

(アイリスちゃんってば、まじめなんだから……)

「シャレじゃな~いじゃありません!」
本気で怒っているアイリスにあっさり白旗をあげる。

父親という生き物は娘には弱いらしい。

「ごめんなさい。2人が可愛かったから、つい調子にのってしまったわ」
しかしここで引き下がらないのが、ルーカスのルーカスたる所以である。
「ところで和泉ちゃん達の恋のABCって、どんな感じかしら~?」
「一緒でした」
「そうなの~?世界共通なのかしらね」
「そうかもしれませんね」
「ねぇね(*´・ω-)b初恋っていつだった?」
!!

(…………先輩)

(和泉)
いつもの恋話なら先輩のかっこよさも含めて、そのノロケいつまで続くのよって位に話続けられる和泉だが、話そうとしてここが手の届かない場所なことも強くおもいださせた。
「父上!いきなり失礼ですよ!!」 
その様子を言いたくないことなのだろうととったアイリスが割って入った。
「わかったわよ~。じゃぁアイリスちゃんのでいいわ~(・ω
「えっ?私?」
思わずレヴィをみる。
「……Aがキス」
遠い眼をして、まだ心ここにあらず状態のレヴィがいた。
(なんの罰ゲームなの?これ)
「父上、私達セレスさまの勅命の途中で、今日中にサルサの街n……」
「大事ないわよ~、アレを使えばサルサの街まで一瞬よ~」
ルーカスの指差した先にはサルサの街に着く魔方陣があった。

客人のためのゲストルームやダイニング周辺には、事故防止のため一切ないが、そこから外れると魔方陣を使って移動するシステムになっている。グノーシス城の魔方陣は修理中で使えないのが痛いが、宮廷魔術師長ルーカスの造る魔方陣の正確さは、有名である。

「サルサの街への魔方陣」
イヤなことを思い出したアイリスの肩はプルプルと震えていた。

1度だけ使わせてもらったサルサの街行きの魔方陣は、問答無用で闘技場の決勝戦にワープし、訳のわからないまま決勝戦を戦うことになった。勇者さまのいる今そんなことは、絶対に避けなければならない。

闘技場ーー

……たしか今日は決勝

「移動先が闘技場決勝戦ってことは、n……」
「あっらー‼よくわかったわね、アイリスちゃん。目指せ、連勝よ~‼」
「ポート・サルサ」
レヴィ、和泉、咲良の3人と自分に転移魔法をかける。

それぞれから白銀の光がまっすぐに上にのびていく。

「腕をあげたわね~、アイリスちゃん」
おもしろいものを見たルーカスは、おもしろそうに笑った。
「連勝も見てみたかったけど、ね(*´・ω-)b」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色