苦しそうな息を繰り返しながら倒れている咲良がいた。
隣ではミューが空間から水を出して鍋にいれている。ポケットに入っていたハンカチを濡らし咲良の額に乗せると、制服のブレザーを脱いで咲良にそっとかけようとした瞬間、咲良のポケットの中にあった結界符が外にとびだして光を放つ。
「大丈夫。私には、これがあるから。咲良は……結界符を維持するために結界を脅かすものと戦ってるの。だから……」
(おじさんや甲斐のような力は、私には)
「なっ!!じゃ……じゃぁ、ジャンケンで勝負よっ!」
「イヤにゃ、僕がチョキを出せないのを利用しようとしてるの、ミエミエにゃ」
「うっ」
(ダメもとだったけど、本当に出せなかったんだ。チョキ)
「ズルイにゃ、和泉」
(自分ばっかり、咲良にいい格好しようなんて…僕は認めにゃいにゃ!)
「それがイヤにゃら、僕も連れて行くにゃんよ!!」
咲良の体がピクンとはねる。
同時に結界符は力を失い、輝きをなくすと一瞬で焼失した。
和泉とミューは辺りを警戒しながら気配を探る。
その子はバサバサという羽音が小さく聞こえたと思うと驚異的なスピードで和泉達に迫ってきた。
「ーーーーーーーーーー!」
(忌々しい小娘風情がっ!)
すれ違いざま和泉の肩付近に魔物の持つ鋭い爪がヒュッと音を立てる。
とっさに受けとめた竹刀の柄をクルクルと爪の動きにあわせて力を逃がしていく。とは言ってもさすがに強度に問題がある。時間をかけすぎれば、折れる。確実に。
そこから一気に気を練ると魔物の爪に向けて一気に解き放す。それにあわせたように詠唱を終えたミューの放つ先が鋭利に尖ったいくつもの氷の刃が雨のように魔物を突き刺す。
さっきより強く気を練りあげ
堅い表皮以外の柔らかい部分に的を絞る。
雄叫びをあげる魔物の口の中をめがけて一気に解き放った。
口の中に入った気は激しく円を描きながら、魔物の口内を激しく傷つけていく。
ふたたび、和泉に襲いかかろうとする魔物の眼にミューが細かい土を投げつける。
「僕の大事な咲良(ついでに和泉も)を傷つけた罪は猫缶禁止3000年の罪に値するにゃ」
「あのねこ愛にあふれたねこ缶が3000年も食べられにゃい重すぎる罪にゃんよ」
「小娘、小娘って、さっきからうるさいわね。私には相原和泉っていう立派な名前があるんだから!」
ねこのジャンプ力と風の力を使い、頭の割れ目の部分にカカト落としをきめるとフワッと着地する。
!?
(このカカト落とし!!……でも、そんなはず…………)
チョコ
(そういえばチョコのご飯ってカルカンのささみ……!)
腹を思いっきり蹴られ、鈎ヅメで皮膚を引き裂かれた和泉の口から鮮血があふれだした。息をする度に痛みがおそう。
「我との勝負中によそ見をするとは、なめられたものだ」
「和泉、この世界の回復薬にゃん。ちょっと苦いけど、ちゃんと飲むにゃんよ。お母さんの代わりに和泉に薬を飲ませる役はコリゴリにゃん」
「僕の家族、和泉まで傷つけた。ねこ缶2000年追加にゃん!」
首についている鈴を3回鳴らす。
ミューとチョコの姿が重なり、赤毛のねこは黒猫に変化していた。
「フウウウウウウウッ」
しっぽを大きく膨らませ、威嚇する。
「ほう……!」
魔物が目を細める。珍しいものをみた顔をしている。