ピラー草原2 結界を護る者

文字数 1,766文字

「………………………………」
苦しそうな息を繰り返しながら倒れている咲良がいた。
「咲良っ!!」
「目を開けるにゃ、咲良」
「……すごい熱」
隣ではミューが空間から水を出して鍋にいれている。ポケットに入っていたハンカチを濡らし咲良の額に乗せると、制服のブレザーを脱いで咲良にそっとかけようとした瞬間、咲良のポケットの中にあった結界符が外にとびだして光を放つ。
「…………咲良」
「ミュー、咲良を看てて。私は周りを見回ってくる」
少し乱暴に竹刀をつかみ早口にミューに告げる。
「待つにゃ、和泉。外は、魔物がいっぱいだにゃ」
「大丈夫。私には、これがあるから。咲良は……結界符を維持するために結界を脅かすものと戦ってるの。だから……」

(おじさんや甲斐のような力は、私には)

「なら、僕が行く!!」
「ミュー?」
「咲良は和泉が看てればいいにゃん」
「なっ!!じゃ……じゃぁ、ジャンケンで勝負よっ!」
「イヤにゃ、僕がチョキを出せないのを利用しようとしてるの、ミエミエにゃ」
「うっ」

(ダメもとだったけど、本当に出せなかったんだ。チョキ)

「ズルイにゃ、和泉」

(自分ばっかり、咲良にいい格好しようなんて…僕は認めにゃいにゃ!)

「それがイヤにゃら、僕も連れて行くにゃんよ!!」

「ミューを?」
「きゃあああああ!!」
「咲良!!」
咲良の体がピクンとはねる。

同時に結界符は力を失い、輝きをなくすと一瞬で焼失した。

「何かくるにゃ」
「気をつけて、ミュー。その子がきっと」
「わかってるにゃ。咲良の仇にゃ」
和泉とミューは辺りを警戒しながら気配を探る。


その子はバサバサという羽音が小さく聞こえたと思うと驚異的なスピードで和泉達に迫ってきた。

「ーーーーーーーーーー!」

(忌々しい小娘風情がっ!)

「さすがに竹刀じゃ分が悪いかもね」
すれ違いざま和泉の肩付近に魔物の持つ鋭い爪がヒュッと音を立てる。

とっさに受けとめた竹刀の柄をクルクルと爪の動きにあわせて力を逃がしていく。とは言ってもさすがに強度に問題がある。時間をかけすぎれば、折れる。確実に。


咲良の結界符が通じるならーー!
そこから一気に気を練ると魔物の爪に向けて一気に解き放す。それにあわせたように詠唱を終えたミューの放つ先が鋭利に尖ったいくつもの氷の刃が雨のように魔物を突き刺す。
「くすぐったいのう」
!!

「それでも私は……!」

さっきより強く気を練りあげ

堅い表皮以外の柔らかい部分に的を絞る。

「グオオオオオッ」
雄叫びをあげる魔物の口の中をめがけて一気に解き放った。

口の中に入った気は激しく円を描きながら、魔物の口内を激しく傷つけていく。

「……うっ、ぐっ!小娘風情がぁっ!!」
ふたたび、和泉に襲いかかろうとする魔物の眼にミューが細かい土を投げつける。
グアアアア
「咲良を傷つけたこと、許さないんだから!」
「僕の大事な咲良(ついでに和泉も)を傷つけた罪は猫缶禁止3000年の罪に値するにゃ」
!?
!?
「あのねこ愛にあふれたねこ缶が3000年も食べられにゃい重すぎる罪にゃんよ」
和泉が可愛そうな子をみる目で僕を見てる…!
「この程度で勝ったと思うなよ。小娘」
「小娘、小娘って、さっきからうるさいわね。私には相原和泉っていう立派な名前があるんだから!」
「無視するにゃぁ!!」
ねこのジャンプ力と風の力を使い、頭の割れ目の部分にカカト落としをきめるとフワッと着地する。
!?

(このカカト落とし!!……でも、そんなはず…………)


チョコ

(そういえばチョコのご飯ってカルカンのささみ……!)


……………………………………!

「グッ…………!カハッ………………」
腹を思いっきり蹴られ、鈎ヅメで皮膚を引き裂かれた和泉の口から鮮血があふれだした。息をする度に痛みがおそう。
「我との勝負中によそ見をするとは、なめられたものだ」
「和泉、この世界の回復薬にゃん。ちょっと苦いけど、ちゃんと飲むにゃんよ。お母さんの代わりに和泉に薬を飲ませる役はコリゴリにゃん」
「チョ……コ?」
「僕が相手をするにゃん」
「僕の家族、和泉まで傷つけた。ねこ缶2000年追加にゃん!」
首についている鈴を3回鳴らす。

ミューとチョコの姿が重なり、赤毛のねこは黒猫に変化していた。

「フウウウウウウウッ」

しっぽを大きく膨らませ、威嚇する。

「ほう……!」

魔物が目を細める。珍しいものをみた顔をしている。

「ンナアアアアアアア」
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登場人物紹介

相原 和泉(あいはら いずみ)


高崎先輩に恋する剣道部チームリーダー


高二。剣道部。

咲良の親友。朝に弱く、毎朝チョコのムーンサルトダイブで起こされる。キノコの里山が大好き。

古泉 咲良(こいずみ さくら)


冷静沈着な純心寺の跡取り


高二。和泉の親友。

純心寺の後継ぎとして育てられたため、多少の術が使える。

しっかり者で、朝に弱い和泉を心配して毎朝迎えにきてくれる。パンケーキと紅茶に目がない。

レヴィ・グレイス


激辛好きな若き王国騎士団団長


王国騎士団団長。アイリスと同期

代々、騎士団団長をだしている名家の産まれ。

前騎士団団長は父であり、行方不明の父と兄の代理として騎士団団長を勤める。立場上、冷静にふるまってはいるが、熱血漢で正義感が強い。王家に対する忠誠心が高い。

アイリス・フォーミュラー


薬学に通じる刻と氷の魔術師


王宮魔術師。レヴィと同期。

王宮魔術師長ルーカスを父にもつ苦労人で少しドジなところはあるが魔力の高さは随一。エリクサーの創始者。かなりの苦さのため理由をつけて飲まない騎士団員や魔術師も多く、心を痛めている。


責任感が強く召喚の位置がずれたことを誰よりも申し訳なく思っている。


相原 チョコ


咲良と猫缶を愛する相原家の猫。

毎朝、和泉を起こすのが日課になってしまっている。

最初は鳴いたり肉球でプニプニしてたけど、和泉が起きないため起こす方法がエスカレートぎみ。


毎朝、優しくなでてくれる咲良が大好き。

案内ねこミュー

咲良に異様になついている。

和泉の枕元にトカゲの死骸など、ナゾのプレゼント畄⌒ヾ(・ω-。)♪をしたりとチョコと行動や性格がかぶっている。


本人(猫?)は絶対に隠したかったため、アイリスとレヴィにムチャクチャな契約をさせていたが、あえなくミュー=チョコだとバレた。


アーノルドのことを恐れている。

セレス・グノーシス   13歳   弟3王女


無事が確認できているグノーシス王家唯一の血筋。


叶わない願いと知りながらもジュリ兄大好きで、コロッと行動を変えてしまうこともあるが、国王達が帰ってきた時のために国を立て直そうと努力するがんばり屋。長く近衛を勤めたレヴィやアイリスの前では、年相応の振る舞いをみせることもあるが、公の場では毅然とした態度をとることが多い。

ルーカス・フォーミュラー


フリルとリボンを愛する凄腕の魔術師


国立魔術研究所所長、グノーシス城宮廷魔術師長

アイリスの父


おもしろいことと恋ばなが大好き。酒が入ると、その傾向はさらに加速する。猫好き。

シフォン・ブラウン


サルサの街を拠点に活動中の関西弁冒険者


もとアイリスの同僚。お節介なところがあるが本人に悪気はない。闘技場の警備や千尋のアトリエからの仕事を主にしている。

アーノルド・ブラウン


質実剛健の老紳士


レヴィが12歳の時から2年前までグレイス家に仕えていた。指南役であり、レヴィの剣術はアーノルドの影響が強い。お説教も含め、話が長いのがたまに傷。

カイ・ハズウェル


チャラさと真面目さが同居する魔法剣士


口から産まれてきたような性格だが剣の腕は確かで攻撃魔法も回復もこなす。レヴィの兄オスカーと仲がよく、レヴィのことは、からかいがいのある弟のように思っていて、本人は可愛がっているつもりである。

???

結城 千尋


5年前、不思議な光と共にやってきた凄腕錬金術師


現在は、名前だけ。

サルサの街で千尋のアトリエを経営している。

元々は女子高生だったが、1から錬金術をはじめた。

シフォンと採取に行くこともおおい。

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