15
文字数 1,984文字
こっちが見ていたのに視線を逸らすのは失礼だったなと、すぐに視線は戻せないまでもサファイアが謝罪のために口を開こうとした瞬間。
先にエメラルドの方が話し始めた。
「それじゃ話が決まった所で、審査に入りましょうか!」
その言葉についてこられずにぽかんとした顔になったのはアミルだけで、サファイアとクリアは同時にエメラルドの顔を凝視してしまう。
生まれた時からずっと一緒にいるサファイアはもちろん、もう何年も一緒に暮らしている状態のクリアも、まさかこの話の流れでその単語が出るとは思ってなくて驚愕したのだ。何と言っていいかわからないサファイアに代わってここまでずっと会話を見守っていたクリアが堪りかねて言葉を挟む。
「ちょっと。さすがにそれはどうなんですか」
「あらクリア。何を言いたいのかしら?」
「だって今回はこちらから頼んでる話ですよ? なぜ審査が」
「困った弟子ねぇ。こちらからお願いすることと、審査が必要なことは関係のない話でしょうに」
「えぇ……」
普段こそあまり意見を挟まないクリアだが、師弟関係だから意見を言えないという訳ではない。むしろ彼はエメラルドに対して言いたいことは必ず言う。意見をあまり言わないのは、言う必要がないかららしい。彼が師匠である母の判断基準を誰より理解し、思考に関しても結婚している父より熟知していることをサファイアは知っている。
そんなクリアすら絶句しているのだから、サファイアだってエメラルドのこの言い分はわからない。
ただ戸惑っている二人の雰囲気は伝わっているアミルが、ものすごく不安そうな表情になった。
「何? どういうこと。審査?」
サファイアたちとエメラルドの顔を交互に見ながら呟いているアミルに、緑の目を輝かせながらエメラルドが笑う。
「そう、審査。皇国でもずっとそうだったんだけど、この子の側に来る可能性がある人には全員受けてもらってるのよ」
娘を指し示し説明するエメラルドに、アミルは一瞬視線をサファイアに置いてちょっと戸惑った表情をした。
「えっと、アレか? 何処の馬の骨ともわかんない奴を娘に近づかせられない、みたいな?」
嘘だろとでも言いたげなその表情に、合っているとも間違っているとも言えずにサファイアは困ってしまう。
そういう意味合いが全く入ってないとは言えないし、かといってそれが主題かといえばそうでもない話だった。時にエメラルドの舌先三寸で少々理由は異なったりするものの、その根底に存在するのは常に娘を守りたいという親心なのは分かっているから、サファイアは例外なく審査を実施する母に不満を抱いたことはない。
何をそこまで警戒しているのだろうとは思ったことがあるけれど、過去にこの母ですら命の危険があった場所だと思えば警戒のしすぎだとも思えなかった。
遠いあの日。
日々弱っていった母の姿を覚えている。
幸運にも母の命が失われることはなかったけれど、そんな危険が隣り合わせに存在しているということを幼心に刻みつけるには十分な出来事だった。
「まぁそんな感じね。だって変なのから勝手に手を出されて何かあったら間に合わないじゃない」
説明になっていないように思えるエメラルドの言葉に、けれどアミルは呆れつつも何故か頷いた。
「まぁ、やらないよりゃ、いいのか……」
「貴方もこれから七年一緒に暮らすんなら当然、対象よ」
「そういうことなら、別にいいけど」
もっと反発すると思ったアミルがあっさりと納得した様子に、意外な気がしたのはサファイアだけではなかったらしい。ことっと首を傾げエメラルドが問いかける。
「意外ね? 助けてやるのに何だそれーって、もっと嫌がるかと思ってたけど」
「そうしたい理由は理解できる範囲内だし、その理由と、俺個人がアンタをどう思ってるかとは別の問題だろが。それに」
ちらっとアミルの赤紫の目がこちらに向けられた。
何だろうと思いつつ見返したらすぐにふいっと逸らされる。何で逸らしたのかの理由は分からないけれど、エメラルドに対してはそういうことはなく目を合わせて話しているのにな、と思うと少し寂しい。勝手に押しかけてきたのもあるし、もしかしたらあまり好かれていないのかもしれなかった。
「仮に馬の骨みたいな理由だったとしてもアンタの思い過ごしだとは言い切れねーし……」
最後の方は弱くなって聞こえなくなった。そしてものすごく居心地悪そうな顔をして誰もいない方に視線を流しているアミルを前に、エメラルドが素っ頓狂な声を上げた。
「あら? あらあらぁ? へぇ〜、そう、あらまぁ」
「何だよ」
そのままにやにやと笑うエメラルドに対して心底嫌そうな顔になったアミルが睨むみたいに視線を向ける。
「別に。そういうことならなおさら頑張って貰わないとね」
「やっぱ断ろうかな……」
揶揄うみたいなエメラルドの言葉にアミルが不機嫌に毒づいた。
先にエメラルドの方が話し始めた。
「それじゃ話が決まった所で、審査に入りましょうか!」
その言葉についてこられずにぽかんとした顔になったのはアミルだけで、サファイアとクリアは同時にエメラルドの顔を凝視してしまう。
生まれた時からずっと一緒にいるサファイアはもちろん、もう何年も一緒に暮らしている状態のクリアも、まさかこの話の流れでその単語が出るとは思ってなくて驚愕したのだ。何と言っていいかわからないサファイアに代わってここまでずっと会話を見守っていたクリアが堪りかねて言葉を挟む。
「ちょっと。さすがにそれはどうなんですか」
「あらクリア。何を言いたいのかしら?」
「だって今回はこちらから頼んでる話ですよ? なぜ審査が」
「困った弟子ねぇ。こちらからお願いすることと、審査が必要なことは関係のない話でしょうに」
「えぇ……」
普段こそあまり意見を挟まないクリアだが、師弟関係だから意見を言えないという訳ではない。むしろ彼はエメラルドに対して言いたいことは必ず言う。意見をあまり言わないのは、言う必要がないかららしい。彼が師匠である母の判断基準を誰より理解し、思考に関しても結婚している父より熟知していることをサファイアは知っている。
そんなクリアすら絶句しているのだから、サファイアだってエメラルドのこの言い分はわからない。
ただ戸惑っている二人の雰囲気は伝わっているアミルが、ものすごく不安そうな表情になった。
「何? どういうこと。審査?」
サファイアたちとエメラルドの顔を交互に見ながら呟いているアミルに、緑の目を輝かせながらエメラルドが笑う。
「そう、審査。皇国でもずっとそうだったんだけど、この子の側に来る可能性がある人には全員受けてもらってるのよ」
娘を指し示し説明するエメラルドに、アミルは一瞬視線をサファイアに置いてちょっと戸惑った表情をした。
「えっと、アレか? 何処の馬の骨ともわかんない奴を娘に近づかせられない、みたいな?」
嘘だろとでも言いたげなその表情に、合っているとも間違っているとも言えずにサファイアは困ってしまう。
そういう意味合いが全く入ってないとは言えないし、かといってそれが主題かといえばそうでもない話だった。時にエメラルドの舌先三寸で少々理由は異なったりするものの、その根底に存在するのは常に娘を守りたいという親心なのは分かっているから、サファイアは例外なく審査を実施する母に不満を抱いたことはない。
何をそこまで警戒しているのだろうとは思ったことがあるけれど、過去にこの母ですら命の危険があった場所だと思えば警戒のしすぎだとも思えなかった。
遠いあの日。
日々弱っていった母の姿を覚えている。
幸運にも母の命が失われることはなかったけれど、そんな危険が隣り合わせに存在しているということを幼心に刻みつけるには十分な出来事だった。
「まぁそんな感じね。だって変なのから勝手に手を出されて何かあったら間に合わないじゃない」
説明になっていないように思えるエメラルドの言葉に、けれどアミルは呆れつつも何故か頷いた。
「まぁ、やらないよりゃ、いいのか……」
「貴方もこれから七年一緒に暮らすんなら当然、対象よ」
「そういうことなら、別にいいけど」
もっと反発すると思ったアミルがあっさりと納得した様子に、意外な気がしたのはサファイアだけではなかったらしい。ことっと首を傾げエメラルドが問いかける。
「意外ね? 助けてやるのに何だそれーって、もっと嫌がるかと思ってたけど」
「そうしたい理由は理解できる範囲内だし、その理由と、俺個人がアンタをどう思ってるかとは別の問題だろが。それに」
ちらっとアミルの赤紫の目がこちらに向けられた。
何だろうと思いつつ見返したらすぐにふいっと逸らされる。何で逸らしたのかの理由は分からないけれど、エメラルドに対してはそういうことはなく目を合わせて話しているのにな、と思うと少し寂しい。勝手に押しかけてきたのもあるし、もしかしたらあまり好かれていないのかもしれなかった。
「仮に馬の骨みたいな理由だったとしてもアンタの思い過ごしだとは言い切れねーし……」
最後の方は弱くなって聞こえなくなった。そしてものすごく居心地悪そうな顔をして誰もいない方に視線を流しているアミルを前に、エメラルドが素っ頓狂な声を上げた。
「あら? あらあらぁ? へぇ〜、そう、あらまぁ」
「何だよ」
そのままにやにやと笑うエメラルドに対して心底嫌そうな顔になったアミルが睨むみたいに視線を向ける。
「別に。そういうことならなおさら頑張って貰わないとね」
「やっぱ断ろうかな……」
揶揄うみたいなエメラルドの言葉にアミルが不機嫌に毒づいた。