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文字数 1,792文字

 エメラルドがアミルを連れて行って数時間。
 まだ戻ってこないことから審査が長引いていることがわかる。
 クリアが来てからはクリアがずっと代理でやっている審査だが、クリアが審査する場合も含めここまで長引くことなど過去に全くなかった。最初こそ雑談をしながらその終わりを待っていたサファイアも、時間が過ぎるにつれて少しずつ落ち着きがなくなっていく。
 早く決着がつく場合、まず間違いなく審査される誰かが落ちている。
 だから普段より時間がかかっていると分かった時点でアミルの力量は明らかだったが、数時間も過ぎてくると今どうなっているんだろうという気持ちが湧き上がってきた。娘ながら母を心配する気持ちはあまりなく、アミルの方が無理していないだろうかと気になって仕方ない。
 審査と言うものの、一回限定のものではないのだ。
 本人さえその気があれば(そしてエメラルドにその気があれば)後日に何度でも再挑戦できる。
 だから場合によっては長く粘るよりも日を改めた方が良いのだが、アミルは恐らくそれを知らないままだろう。
「時間、かかってるね……」
「そうだね」
 サファイアの何度目かの呟きに同じ答えを返したクリアだが、ふいに窓の方を見た。
 その動きに誘われるようにサファイアも同じように窓を見たら、昼間の青だった空は色を変え始めている。
 しばらく空を眺めたクリアはふっと息をついて穏やかに言う。
「日も暮れるし、そろそろ一旦終わって貰おうか」
「っ! うん!」
 エメラルドの審査内容はその時々で異なるけれど、どんな内容であってもサファイアが間に入れるようなものではない。もう何年も母自らの審査など見ていないけれど、終わるまでおとなしく見ていなければならないのは幼い頃からの大事な約束だった。
 だから審査中に口を挟めるとして、出来るのはクリアしかいない。
 本当なら自分が止めたいけれど。
「じゃあ止めてくるけど、サフはここで待っていられるよね?」
「私、行っちゃダメ?」
「僕は良いんだけどさ。師匠や……アミルくんがあんまり望んでない可能性があるから」
 困った顔をして、けれどはっきりと止めようとしてくるクリアの様子に食い下がる気持ちが薄れてしまう。仮にエメラルドだけの問題だったら後で怒られるとしても構わないから、と自己判断で主張出来ただろう。でもアミルが望んでない、と言われればそれでもと言い出す気持ちが起きない。
 審査をしなければならない状況自体、彼が積極的に望んだものじゃない。
 それなのに更にアミルが望まないことをしたいと思えなかった。自分の気持ちとしては待ってるだけは嫌だけれど、だからと主張するのは単なるワガママだ。
「わかった。じゃあ、ここで待ってる」
「うん。良い子」
 言いたい言葉をぐっと飲み込んで返事をしたサファイアの頭をクリアが軽く撫でた。
 クリアは普段からああしろこうしろとあれこれ言ってくるような人ではない。教育係のような事もしているけれど、多くの内容はサファイア自身に考えさせるような教え方をするし、勉強する気が起きない日に強引に勉強をさせたりもしない。ただ、そうしないと後で彼女自身が後悔することに関しては常にはっきり明示して、最後は自分で選択させる傾向がある。そこで曖昧なままこうしておけとかこうしろと言ったりはしない。
 だからクリアを信頼しているけれど、時々とてももどかしい。
「早めに戻ってきてね?」
「勿論。サフが痺れを切らす前に戻ってくるよ」
 じっと見上げて念押しするサファイアの様子に苦笑しながら、クリアは立ち上がる。
 もう一回彼女の頭をさらっと撫でてから彼は部屋を出て行った。
 その後ろ姿を見送って一人きりになった部屋の中。何をすることもなくまわりを見回したけれど、めぼしいものは魔術書ばかりだ。一つ手に取ってみようかと思ったけれど、玄関でエメラルドが注意されていたのを思い出して諦める。
 会ったばかりだから仕方ないけれど、アミルが何を嫌がって何を望むかなんてサファイアにはわからない。クリアやエメラルドみたいに人生経験があればわかるのかもしれない事も、同じ年頃の男子と関わった経験が殆どないサファイアにとって想像することが難しい。
 これから七年一緒にいるのかもしれない相手だ。せめて嫌われない程度にアミルのことを色々知りたいなぁと思ったら、勉強より難しそうな気がしてため息がこぼれた。
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