22.夢の続き

文字数 824文字

 日和の歌を聴きながら、前に見た夢を思い出していた。真っ暗な部屋で、日和が小さくなって座っている。あれには、続きがあった。

 大切だから、だから伝えたの。
 なのに、私の言葉は銃になった。

 弱々しい日和の声が、途切れ途切れに暗い部屋に零れ落ちる。

 大切な母親。
 大切な友達。
 可愛がっていたペットまで。
 大切に想う相手は、みんな“大好き”と告げたその後、息を引き取った。
 私が銃を放ったの。大切な人に向けて、言葉の銃を放ったの。
 日和は、大好き、という素直な思いが銃に変わったと思い込んでいる。

 日和のせいなんかじゃない。
 彼女は、元々病気だったんだ。
 彼は、運の悪い事故だったんだ。
 あの仔だって。
 だから、日和のせいなんかじゃない。

 だけど、あれ以来。日和は、大切に想う人に“大好き”と言えなくなった。また失ってしまうのが怖くて、言えなくなった。
涙は、ひたひたと日和の頬を濡らし続ける。
 大切に想えば想うほど言えない言葉が日和の心の中に渦をなし、蓄積されていくのに、どこへ向けることもできずに沈殿していく。
 澱のように黒く硬く、想いは沈み這い上がることができない。
 その言葉を言えない代わりに、日和は歌うんだ。
 日和の言葉で、彼の歌を――――。


―――― ママ、私の銃を地面に置いて欲しいの
 もうこれ以上、大切な人をなくしたくないの
 あの長くて黒い雲が落ちてくるよ
 天国の扉を叩いてるような気持ちになるの ―――― 


 日和が彼の歌を歌うたびに、僕はあの白黒の世界を思い出す。たくさんの大人の中で小さくなり、涙を必死に堪えている日和を思い出す。
 僕はあの時、ただ、“大丈夫”としか言ってあげられず。日和が思い込んでいる黒いものを、取り除いてあげられるような言葉を言ってあげる事が出来ずにいた。
 そんな自分自身に後悔をし続けながら、僕は今も日和に“大丈夫”しか言ってあげられない。
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