7.スープ

文字数 1,165文字

 紘が帰ったあと、しょぼいまま放置されていた冷蔵庫の中身を満たすため、愛車のママチャリで近所のスーパーへ出かけた。時々、近所のおばちゃんやおっちゃんに声をかけられて、ども、なんて軽く頭を下げて挨拶をする。近所付き合いは、大切だからね。
 スーパーにつき、駐輪場に颯爽とママチャリを停めて店内散策開始。カートにカゴを乗っけて、店内をグルグル。だけど、何を買うか全く考えていなかったから時間ばかりが過ぎていく。
 日和が居たら、サンドイッチ用のパンと、新鮮なレタスと卵と、新しいマヨネーズを買ったのに。
 仕方ないから、特売だって主張している豚肉や鶏肉。野菜は、キャベツやニンジンや玉ねぎと、なんの脈絡もない物を次々とかごに入れてみた。それと、牛乳を一本と六缶パックのビールを三パック買った。
 ずっしりと重いそれをママチャリのカゴに無理やり入れたら、ハンドルを取られて少しだけグラついたけど、ふんっと力を入れて負けなかった。これでも、実はジムで鍛えてるんだ。
 家に着いたら、汗がほんのり首筋に浮いていた。
 しょぼかった冷蔵庫は満腹になり、満足げにそれを眺めてからテレビをつける。
 ソファにいるポスカの隣に腰掛ければ、テレビでは今日も悲惨なニュースが流れていた。耳を塞ぎたくなるような残酷なニュースたちを睨みつけるように観ながら、日和もどこかでこのニュースを観ていて、わざと下手糞に発音する英語で彼の歌っているんじゃないかって思った。
 そう考えると余計に胸が苦しくなってきた。
 その苦しさを引き摺りたくなくて、ポスカを尻目に僕はキッチンへ立つ。腹が減っては、戦は出来ないんだ。どこかへ戦いに出るあてなどないけれど。
 メニューも考えずに買ったキャベツとニンジン・玉ねぎをコンソメで煮てみた。
僕って無意識にメニューを考えてたのか? ふふっ、なんて口角を上げてみたけど、出汁になるものが何もなくてベーコンを買えばよかったな、なんて思う。ベーコンがあれば、チャーハンを作ったときに日和も満足しただろうに。
 それから、鶏肉があるじゃん、と思いなおしたあと入れてみた。
 グツグツと煮込んだ野菜たちはとろとろになり食欲をそそったし、鶏肉も軟らかく煮えていたけど、やっぱりベーコンの方がよかったなって、味見しながらちょっとの不満をもつ。器に盛り付けテーブルにスープを置くと、日和が居たら日和の分だけは少し冷ましてテーブルに置いただろうな。それで、一緒に食事をしただろうな。と物思いに耽った。
 スプーンですくった温かなスープを口にしているのに、心ん中がちっともあったかくならなくて。春は当に来ているのに、まだまだ寒いや、なんて独り言を洩らした。
 作ったスープの量は一人では多すぎて、僕は日和の姿を探すようにポスカに視線を送った。
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