20.同じ場所
文字数 958文字
千葉君の彼は、ひよこによく似た優しい人だったらしい。千葉君とあのマンションで暮らし、仲睦まじい姿を日和に見せていた。
けれど、ひよこの彼はいなくなり、千葉君の前から姿を消した。それは、誰にでも起こりうる心の変化だった。誰が悪いのかなんて、わからない。ひよこの彼の中で、千葉君は一番ではなくなってしまったんだ。
ずっと一緒だと思っていた大切な人の心が、少しずつ少しずつ、自分から離れていく。それを毎日すぐ目の前で見て感じていくという事は、きっとものすごく辛いことだろう。どんなにこっちを見て欲しくて、どんなに笑顔を向け話しかけても、距離はどんどん離れ、心の隙間は深く暗い色に染まっていく。深い深い谷間に自分だけが落ちていく感覚というのは、絶望に近いのだろうな……。
そんな闇濃く深い谷間に落ちてしまっても、千葉君は忘れられなかった。大好きな彼のことを、忘れることができなかったんだ。
来る日も来る日も彼の帰りを待ちわびながら、千葉君はやつれていった。
そんな親友の千葉君を放っておけなかった日和は、なるべく傍にいてあげるようにしていた。けれど、日和はきっと辛かっただろうな。どんなに慰めても、彼の代わりになれないことは解っている。こんな時に、どんな言葉や態度が正解なのかなんて、誰もわからないのだから。
そばにいるのにどうしてあげることもできない苦しみを、日和はずっと背負ってきていたのに、僕はそんなことにも気づかずにいたなんて。なんて間抜けなんだ。
そうして日和は、千葉君のためにピンク色のひよこを欲しがった。ひよこの彼の替わりにならないかって、すがる思いで千葉君のために欲しがった。
僕がひよこを飼うことを許可しなかったせいで、それは金魚になってしまったわけだけれど。それでも、ピンク色をした尻尾の金魚を、日和は千葉君へと届けてあげた。
僕は千葉君のことをよく知らないけれど、それでも日和が届けた金魚を眺めて、彼の想いが少しでも救われることを願わずにはいられない。
「ともちゃん……」
「ん?」
「人は、どうしてずっと同じ場所には、居られないんだろうね……」
寂しげに呟く日和に、僕は応えてあげることができずにいた。
あの時と同じように、僕は何も応えてあげる事ができなかったんだ――――。
けれど、ひよこの彼はいなくなり、千葉君の前から姿を消した。それは、誰にでも起こりうる心の変化だった。誰が悪いのかなんて、わからない。ひよこの彼の中で、千葉君は一番ではなくなってしまったんだ。
ずっと一緒だと思っていた大切な人の心が、少しずつ少しずつ、自分から離れていく。それを毎日すぐ目の前で見て感じていくという事は、きっとものすごく辛いことだろう。どんなにこっちを見て欲しくて、どんなに笑顔を向け話しかけても、距離はどんどん離れ、心の隙間は深く暗い色に染まっていく。深い深い谷間に自分だけが落ちていく感覚というのは、絶望に近いのだろうな……。
そんな闇濃く深い谷間に落ちてしまっても、千葉君は忘れられなかった。大好きな彼のことを、忘れることができなかったんだ。
来る日も来る日も彼の帰りを待ちわびながら、千葉君はやつれていった。
そんな親友の千葉君を放っておけなかった日和は、なるべく傍にいてあげるようにしていた。けれど、日和はきっと辛かっただろうな。どんなに慰めても、彼の代わりになれないことは解っている。こんな時に、どんな言葉や態度が正解なのかなんて、誰もわからないのだから。
そばにいるのにどうしてあげることもできない苦しみを、日和はずっと背負ってきていたのに、僕はそんなことにも気づかずにいたなんて。なんて間抜けなんだ。
そうして日和は、千葉君のためにピンク色のひよこを欲しがった。ひよこの彼の替わりにならないかって、すがる思いで千葉君のために欲しがった。
僕がひよこを飼うことを許可しなかったせいで、それは金魚になってしまったわけだけれど。それでも、ピンク色をした尻尾の金魚を、日和は千葉君へと届けてあげた。
僕は千葉君のことをよく知らないけれど、それでも日和が届けた金魚を眺めて、彼の想いが少しでも救われることを願わずにはいられない。
「ともちゃん……」
「ん?」
「人は、どうしてずっと同じ場所には、居られないんだろうね……」
寂しげに呟く日和に、僕は応えてあげることができずにいた。
あの時と同じように、僕は何も応えてあげる事ができなかったんだ――――。