2024 パリ

文字数 1,204文字

 凱旋門に五輪マークが投影される。2024年、前回大会から2年しか経ってないのに、次の大会が始まろうとしている。パリっ子たちは熱狂的ではないが、大会を歓迎した。彼らに深い考えはない。100年ぶりにやってきたオリンピックゲーム、フランスのテレビニュースで百歳の老人が100年前のことを聞かれていたが、「まだ産まれたばかりで光しか見てないし、それさえ覚えてない。」と真顔で答えていた。
 明日の開会式前にパリは騒然としていた。各国から大勢の応援団がやってきてパブを占拠しワイン片手に騒ぎ立てていた。熱くなりすぎた観光客がストリートで喧嘩をし、そのたびにルノーのパトカーが駆けつけた。
 そんな騒めく真夏のパリの街角にマスクをつけたアジア人が現れた。パリっ子や集まった各国の応援団や観光客は彼を見て声を上げて笑った。
 「いつのファッションをしてるんだい?」
 「そんな流行は過ぎたよ。それとも風邪でもひいているのか?」
 マスクの男は何を言われても気がつかない様子。言葉がわかってないのか、もしくは企みがあるのか、マスクの男は一言も発しようとしなかったし、表情も変えなかった。ワインで酔った南フランス地方からきた男が陽気にアジア人に絡みつく。
「俺も田舎者だが、お前も相当な田舎もんだろうな、まだマスクなんてしてやがる!お前らコウモリ食って、厄介なもの広めにきたのか?とっとと遠い東に帰ってくれ!」
 絡まるように赤ら顔で近づいていてマスクに手をかけたが、アジア人の男は逃げもしなかった。マスクを得意げな顔で剥ぎ取る酔っ払いは、マスクを取って現れた顔に一気に酔いが覚めた。
「なんてことだ!レジェンドじゃないか!こんな俺でも知ってるぞ!」
 アジア人の彼を見た連中は近づきたいが、近づき過ぎてはならぬと敬意を示した。だから彼を中心にして二メートルの輪ができた。その輪に人がどんどん集まる。
「やっぱり、こういうのがいいや。たくさん集まって、酒飲んで、騒いで、何言ってるからさっぱりわからんけど、楽しいじゃないか。」
 集まった人たちは、彼に敬意を示そうとざわめきながら、何が聞けるのか、じっと待つ。彼は期待されていた。彼は期待に応えるのが好きだった。隣にいる通訳に言う。通訳は集まった聴衆に彼が今から話すと説明する。拍手が起こり、一斉に静まり返る。
 「俺はもう走らないって決めていたけど、みんなに期待されているみたいだから、明日、たいまつ持って走るよ。東京から火を持ってきたんだ。もう、いらないかもしれないが、燃えてる間は引き継いでくれ!どのみち、生きてる間は、走るしかないんだ。燃えてる間は、燃やすしかないんだよ。明日は、前ほど速くは走れないが、お前らぐらいなら負けないぜ。よーく、見とけよ!」
 彼が言って、通訳が済んだ後、ようやく通りに歓声が上がる。変なテンポで、継ぎ接ぎだらけで、つまずきそうになるが、なんとか繋がったようだ。了
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