開会式 その2

文字数 1,758文字

 今泉は戦車が縦に反りあがり、砲台がこっちを向いている画面にくぎ付けとなった。テロだ。数か月に及ぶ会議の中で、特に開会式に関しては、不穏な動きがあれば切り替えろと指示はあったが、逃げ惑う中国人、人民を暴力によって抑えようとする人民解放軍の様子を見ると、その続きが見たくて仕方なかった。これこそが報道だ。生身だ!今泉は興奮した。それと伴い視聴率もグングン増えた。
 「おい、今泉、なにやってんだ!インドだろ次は、早く切り替えろ!」
 「しかし、高木さん、視聴率倍増しですよ!いいんですか?」
 「中国様の都合の悪いことを放送するな!世界中が見てるんだぞ!・・でも、数字は取れるな。どうせ、もみ消して無かったことになるから、中断の連絡があるまで流そう。」
 ところが画面はインドに代わる。ガンジス川のほとりで集まるインド人がインドポップに合わせて首を横に振りながら踊る。インドが好きなミュージカルのような演出。インドのアスリートたちは着飾り、踊りながら演技する。
 「なんだ、今泉、切り替えたのか!まあ、それがいいだろうな。中国様はメインに近いスポンサーとなっているからな。」
 今泉は切り替えスイッチに触った覚えはなかったが、勝手にスイッチングされた。自己防衛、職務への誠実さが無意識の意思となって、そうさせたのかと一瞬思ったが、何もしてない。リモート操作が行われたに違いない。ここで高木に切り替え操作が乗っ取られたことを言うべきか悩んだが、開会式はもう始まっているし、残り時間が過ぎてしまえばいい。あと一時間もすれば終わる。今泉は平静を装い、ただ、タバコが吸いたかった。
 「はいどうも!キラーズでーす!とうとうこのすごい日が来ましたね、すごい記念にすごい電凸中継しちゃうよ。すごいチャンネル登録よろしくすごくお願いします。」
 「お願いしまーす!」
 「この様子はユーチューブで実況してるんるん!デス!デス!」
 「おい、やめろよ、そういったのは、きゃはははは。」
 インドの会場から、室内に六人並ぶ、じっと出来ないチャラけた若者が映し出される。とても不快な動画配信。その画面を前に呆然とする高木
 「・・おい、今泉、こりゃなんだ?キラーズのサプライズとかあったのか?」
 「・・・・・さあ、高木さん聞いてないんですか?私も驚いてます。」
 「それではね、我々も東京オリンピックのリモート開催参加に参加表明することを決意します、今。参加表明!我々キラーズは天地天命に誓い、このオリンピック開会式を全力全霊をもってすごく盛り上げることを誓うことを誓います。我々の影響はすごく、すごいことを我々が、地球のみんなはすごいと認識しているのですごいことを、キラーズが、キラーズの活躍によって、すごい開会式がすごくなって、そのせいでキラーズのすごさを世界に知れ渡ることが出来ることが可能となりそれはすごいことなので・・」
 おふざけユーチューブ集団キラーズが、いつもの奇妙な日本語によるおふざけ放送を始めた。コンテンツキラーでキラーズと名乗っている。高木は顔をゆがませる。そこで画面が切り替わる。覗き込む三人の顔が並ぶ。五十代の夫婦と真ん中に三十代の息子。テレビについてる双方向カメラの画像だ。これはまずい。三人の親子は自分たちが映っている姿をみて驚き、しかし、どうしようもなく呆然としている。放送事故だ。いたたまれない気持ちで今泉が、無駄と思いながら画面切り替えスイッチをカチャカチャやっているとスイスの会場が映し出される。ホルンが並んだなか、選手団が透明なマスクをして手を振っている。ここで安田アナが割って入る。緊張感があるテンポのしゃべり方だが、石のように冷たく冷静に状況を説明する。
「一部お見苦しい、いや、一部はお見苦しくはありません。回線が混乱したようです・・たった今入った情報ですが、ハッカー集団に回線をハッキングされたようです。この放送を見ていると思いますが、妨害するハッカー集団、今すぐ妨害行為をやめてください。この大会には、様々な人の思いが詰まってます。その思いを踏みにじることは決して許されることではありません。今すぐ妨害を・・・」
 安田アナの注意が途中で止まり、画面切り替わり画用紙にマジックで書かれた手書きのテロップが映し出される。
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