【漆ノ弐】

文字数 1,295文字

「相原くん! いらっしゃい! ……おとーさん、お客さんだよー!」

 髪を下ろしている。腰まであるブロンドヘアが、開けたドアの風にゆれてる。青い瞳が、こっちを見てる。なんどもタブレット越しにキスした、愛しい愛しいすがた。

「やあ、結花」
「きょ、今日は髪、下ろしてるんだね?」
「……うん。今日はこっちで来てみた」
「似合うよ、相原くん。わたし、そっちの方が好きだな……」
「結花も、おさげ、いつも可愛いね」

 結花は戸惑うけれど、愛する愛する彼女は、とても穏やかに笑う。

「メイド服姿も、とっても良く似合うよ」
(わたし、今たぶん真っ赤だ……)

 結花は両手でほっぺたを押さえた。見られるわけにはいかない。自分が女の子しか好きになれないなんて、バレたらたいへんだ。でも……

「そ、そんなに……似合う……かな?」
「結花は背が高いから。とってもよく、似合う」

 そう言うと、入り口からずいっと入ってきて、カウンターに自身の身体で結花を押し当てた。いわゆる壁ドンされている状態だ。

「は、はわわ……ど、どしたの? きょ、今日はなんだか……積極的……っていうか……」
「結花」
「お、おとーさん、どーしたんだろ、まだかなー? せ、せっかく、相原くん来てくれたのに……」

 彼女の顔がどんどん近づいてくる。

「ねえ、今日は。結花のお部屋案内してよ」
「わ、わたしのおへや? い、いいけど……うん、いいよ」

 写真、貼ってなくて良かった。結花は心底ホッとした。

 ……

「いらっしゃい、相原くん」

 さっきは不意打ちで先手を打たれたけど、今度はこっちのばんだ。失敗はできない。なぜなら今日は、大好きな、大好きな相原くんと……()()()()()のだから。

「可愛いお部屋だね」
「えへへ。可愛いものが好きなの」

 机の上に、ベッドの周りに。何度も行った舞浜の夢の国のキャラクターのぬいぐるみで飾った結花の部屋は、女の子らしさ満点のお部屋だ。いちばんの仲良しのみかにすら見せていない、秘密のお部屋。褒められて、嬉しい。

「結花の方が可愛いけどね」
「え?」

 ん──!
 キスをされた。そしてメイド服のまま、ぬいぐるみたちの結花のベットに押し倒した。唇を離す。

「結花……好きだ」
「相原くん……わたしも……」

 そこから先は、夢見心地だ。
 オトナの映画でしか見たことの無い、体験だった。

 ……

 おとーさん。天国のおかーさん。
 わたし、今、オトナの階段登ってるの。
 今からオトナになるの。
 けっこんするの。
 この人と。
 それで、それで、こどもうむの。
 ああ、わたし、しあわせだ。
 しあわせなの。
 おとーさん、天国のおかーさん。
 わたし、天国にいるみたい。
 わたし、しあわせなの。

 ねえ、わたし、しあわせ。

 ねえ……

 ……

 相原ゆうは、新月の牙で、香坂結花のぜんぶの血といっしょに、いのちを残らず吸い取った。

『完璧だ。おおかみにせず、新月の魔力で封殺するなんて』

 ベルは感心している。なんだかとても嬉しそうだ。

「いのちを吸い殺したんだ。友達の」
『そうだったね……ごめんよ……』
「ううん、大丈夫。ベルを取り戻すためだから」

 そう言って、ゆうは真っ白になった結花の首筋に、かみついた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み