4. 〝箙〟-1

文字数 724文字

「それにしても、どうして景清先輩はあんなところにいたんでしょうか?」
 箸をおいて微笑が呟く。真顔になった深夜を萌が横目で見る。
「確かに、景清クン、そんなとこで何してたんだろうね?かすり傷だって話だけど」
「見回りだろ」
「見回り?見回りって、何のですか?」
「オオカミ保護だか観察だかのための見回り。景清は、『自治体自然観察監』、通称〝月〟の少年部に所属している」
「はぁ?あんた、何でそんなこと知ってんの?」
「真昼に聞いた。真昼も一時期所属してたからな」
「何それ?」
「砧さん、本当ですか?」
「深夜先輩も知らなかったんですか?」
「おい、キモオタ!何で深夜も知らないことをあんたが知ってんだよ!」
「ちなみにデンさんも知ってる」
「ちょっ、お兄ちゃんも?」
「〝月〟を最初に作った軽井沢の環境課の役人と景清は、奴が軽井沢の施設にいた頃からの知り合いだって話だ。役人の母親が施設の職員だったらしい」
「何でそんなこと今まで黙ってたんだよ!」
「訊かれてないし、言う必要もないだろ」
「じゃあ今言え!すぐ言え!」
「最初に会ったのは、スコラ御代田で開催された生物多様性の講演会だ」
「ああ、あの、真昼が行くとか言ってた」
「地方の更に端っこで開催された割には大掛かりだったよ。司会はこのあたりじゃ人気らしい桜川何とかというアナウンサーだった」
「えぇ?地方局アナなのに全国区とかいう生意気な?」
「最初に関心を持ったエマは、当日納品で行けなかった。ノノは読者モデルの撮影が重なり、結局デンさんと真昼と俺の三人で行った。その時の運営者の一人がその役人だ。講演会の名前は、〝月〟が運営するオオカミ観察記録のブログと同じ、『月は見ている』だった」
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登場人物紹介

絵馬深夜(えましんや)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部一年生


野宮萌(ののみやもゆ)

深夜の同級生で、野宮伝の妹。

景清(かげきよ)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

八島(やしま)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

新聞編集営業配達部部長。

呉服(くれは)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

新聞編集営業配達部副部長。


砧(きぬた)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

田村(たむら)

長野県警の刑事(警部)。

ノンキャリア。

長野県警の刑事(警部補)。

キャリア。

雨月一陽(うげついちよう)

公立雨月学園御代田中等教育学校校長。

〝Es ist Kain!〟の著者。

安宅(あたか)

公立雨月学園御代田中等教育学校教頭。

水無瀬微笑(みなせほほえみ)

公立雨月学園御代田中等教育学校中等部二年生。

厨二病。

野宮伝(ののみやつたう)

赤帽ドライバー。

萌の兄。

雨月一陽とは同窓生。

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