5. 〝毛皮を着たヴィーナス〟
文字数 1,599文字
「病気ですか?」
「冥王症。別名シルバーショットガン。密猟者にも子供や孫がいる場合もあるだろうから、感染は避けたいんだろ。オルヴズが怖れられてるのは、シルバーショットガンが大本だからってのもある」
首を傾げる微笑を横目に、砧がスマートフォンを取り出す。
「物質に感染するウイルスと言っても、何にでも感染するわけじゃない。俺のオルヴズのように固相には影響しないものや、さっき八島が説明したように、磁性体以外には感染しないガウスもある。だが、それ以外に共通しているのは、そのオルヴズの持ち主の遺伝子を持つ物質には、例えそれが生命活動から切り離されても感染しない、ということだ」
「えーと?」
「例えばノノのファーレンハイトなら、切った自分の爪や髪、垢を含む皮膚には感染しない」
「垢って言うな!」
「もちろんそれがエマの切った爪や髪なら感染する。感染しないのは、あくまで自分の遺伝子を持つ非生命だけだ。だから、それぞれの装備、ゴーグル、手袋、靴、ズボン、シャツなどの基本装備は、自身の髪や爪、皮膚を培養したものとなる。あれこれ検査を受けたのは、かっこうだけでもミーナの装備を用意するためだろう」
「よくわからないけど、先輩たちは検査がなかったんですか?」
「あたしたちは物心ついた時にはもうウルヴズだったからね。そういう記憶がないんだ。赤ん坊の時に採取された皮膚や髪をどこかで培養、保管してて、定期的に交換するようになってる」
「一方で、ウルヴズは同じ現場で使役される事も多い。他のウルヴズのウイルスの影響を受けるおそれもある。だから、いかなるオルヴズも絶対干渉しないような装備も必要となる。それが、エアープランツを品種改良して作られたこのマント、通称、『クロスプランツ』だ」
砧がクローゼットの扉を開けた。濃緑色のフード付きのマントがいくつかぶら下がっているのを見て、微笑が小さく叫ぶ。
「自身の体の一部を培養した装備と、このクロスプランツを総称して、『毛皮』と呼んでいる。これがさっき言った予備だ。それぞれが自分のロッカーで管理している。クロスプランツに関しては、手入れと言っても、定期的に光に当て、時々霧吹きをかける程度でいい。これ以外にもオルヴズに応じた装備があるが、基本はこれだ」
「そうです!検査の人たちもこんな感じの着てました」
「『人』じゃない。その格好をしている限り『人』とみなされない」
「やっぱ、『新人類』って感じですか?」
「違う。毛皮を着てる時はただの道具扱いだ。銃刀のような武器であったり、金づちや鋸のような工具であったり、時には医療機器や補助教材にもなるが、あくまで『モノ』でしかない」
「ええー?よりによって教材ですか?私たちがヒーローになって、悪いやつらと戦って倒すとかじゃないんですか?」
「せっかくの特殊能力を戦闘なんて言う非生産的な肉体労働にしか使わないなんて頭悪すぎるだろう。エマを見習ってゴミを拾え、ゴミを」
「ゴミじゃありません。鉄屑です!」
「つまりはゴミだろーが」
「『活かせば資源、捨てればゴミ』なんです」
「環境省の回しものみたいなこと言うなよ。いや、ある意味回しものか」
「えー?せめて警察とか自衛隊の方がいいです」
「それらからの要請もある。防衛省、警察庁や消防庁から、文科省、厚労省、国交省、更には地方自治体や各種営利団体、非営利団体と、使役する権限のあるものがいれば、どこでも。と言っても、それらの団体から直接発注が来るわけじゃない。出荷要請や変更などの指示は、全て、さっき八島達が言ってた『森』、"wOLVes on Order Delivery System"で"woODS"から来る。それがどこにあるのか、構成員がウルヴズかどうかもわからないが、この辺りは気にするな。どのみち拒否権はない」
「冥王症。別名シルバーショットガン。密猟者にも子供や孫がいる場合もあるだろうから、感染は避けたいんだろ。オルヴズが怖れられてるのは、シルバーショットガンが大本だからってのもある」
首を傾げる微笑を横目に、砧がスマートフォンを取り出す。
「物質に感染するウイルスと言っても、何にでも感染するわけじゃない。俺のオルヴズのように固相には影響しないものや、さっき八島が説明したように、磁性体以外には感染しないガウスもある。だが、それ以外に共通しているのは、そのオルヴズの持ち主の遺伝子を持つ物質には、例えそれが生命活動から切り離されても感染しない、ということだ」
「えーと?」
「例えばノノのファーレンハイトなら、切った自分の爪や髪、垢を含む皮膚には感染しない」
「垢って言うな!」
「もちろんそれがエマの切った爪や髪なら感染する。感染しないのは、あくまで自分の遺伝子を持つ非生命だけだ。だから、それぞれの装備、ゴーグル、手袋、靴、ズボン、シャツなどの基本装備は、自身の髪や爪、皮膚を培養したものとなる。あれこれ検査を受けたのは、かっこうだけでもミーナの装備を用意するためだろう」
「よくわからないけど、先輩たちは検査がなかったんですか?」
「あたしたちは物心ついた時にはもうウルヴズだったからね。そういう記憶がないんだ。赤ん坊の時に採取された皮膚や髪をどこかで培養、保管してて、定期的に交換するようになってる」
「一方で、ウルヴズは同じ現場で使役される事も多い。他のウルヴズのウイルスの影響を受けるおそれもある。だから、いかなるオルヴズも絶対干渉しないような装備も必要となる。それが、エアープランツを品種改良して作られたこのマント、通称、『クロスプランツ』だ」
砧がクローゼットの扉を開けた。濃緑色のフード付きのマントがいくつかぶら下がっているのを見て、微笑が小さく叫ぶ。
「自身の体の一部を培養した装備と、このクロスプランツを総称して、『毛皮』と呼んでいる。これがさっき言った予備だ。それぞれが自分のロッカーで管理している。クロスプランツに関しては、手入れと言っても、定期的に光に当て、時々霧吹きをかける程度でいい。これ以外にもオルヴズに応じた装備があるが、基本はこれだ」
「そうです!検査の人たちもこんな感じの着てました」
「『人』じゃない。その格好をしている限り『人』とみなされない」
「やっぱ、『新人類』って感じですか?」
「違う。毛皮を着てる時はただの道具扱いだ。銃刀のような武器であったり、金づちや鋸のような工具であったり、時には医療機器や補助教材にもなるが、あくまで『モノ』でしかない」
「ええー?よりによって教材ですか?私たちがヒーローになって、悪いやつらと戦って倒すとかじゃないんですか?」
「せっかくの特殊能力を戦闘なんて言う非生産的な肉体労働にしか使わないなんて頭悪すぎるだろう。エマを見習ってゴミを拾え、ゴミを」
「ゴミじゃありません。鉄屑です!」
「つまりはゴミだろーが」
「『活かせば資源、捨てればゴミ』なんです」
「環境省の回しものみたいなこと言うなよ。いや、ある意味回しものか」
「えー?せめて警察とか自衛隊の方がいいです」
「それらからの要請もある。防衛省、警察庁や消防庁から、文科省、厚労省、国交省、更には地方自治体や各種営利団体、非営利団体と、使役する権限のあるものがいれば、どこでも。と言っても、それらの団体から直接発注が来るわけじゃない。出荷要請や変更などの指示は、全て、さっき八島達が言ってた『森』、"wOLVes on Order Delivery System"で"woODS"から来る。それがどこにあるのか、構成員がウルヴズかどうかもわからないが、この辺りは気にするな。どのみち拒否権はない」