7. 〝ウォッチメン〟-1

文字数 993文字

「ニホンオオカミのことは真昼先輩からも聞いたことがあります。北欧から代理母と狩りの教師として譲り受けたオオカミがイザナミとイザナギ。そして生まれた子たちがアマテラス、ツクヨミ、スサノオだって」
 微笑が言った。砧が続ける。
「一般に知られているオオカミの話のほとんどは、その『月は見ている』に基づく」
「え?お役人さんの?研究者とかじゃなくて?」
「日本政府は、公式にはニホンオオカミの存在そのものを認めていない。いまだにあくまで百年前に絶滅した動物って扱いだ。公式な研究機関は扱えない。唯一の例外は、サンラインの北にある農業試験場の一角にある施設だ」
「実際にいるのに?」
「まあ、まだクローン動物に関する法律も整備されていないのに、よりによってオオカミだから、政府が神経質になるのもわかる。かといって、積極的に駆除しようもんなら、この間も言ったように、一度は国家的なプロジェクトとして蘇らせた野生動物をもう一度絶滅させるのか、と国際的な非難を浴びるのは必至だ。だから『功名心にかられた研究者の暴走』と言う形にして、オオカミに関しては黙殺する方針を取った。現在でも、建前上はヤマイヌ扱いだ」
「山犬ですか?嘘もセコいですね」
「嘘ってわけでもない。日本じゃ、オオカミは昔ヤマイヌって呼ばれていたらしいからな。とにかく、出自自体の曖昧さがそのまま現状になっているが、一方で浅麓地方の住民への配慮は必要だ。特に農業従事者からの猛反発があった。だから国は、『ヤマイヌなど野生動物への対策として』と言う形で、銃刀法を一部改定した。そして、監視、観察の必要性から〝月〟の成立と拡大を容認、というか、見て見ぬふりをした」
「何かいやらしいですね、やり方が」
「そもそも密猟が少ないのは、オオカミそのものより、ウイルスとしてのシルバーショットガンが怖れられているからだ。言わば、シルバーショットガンがシルバーショットガンを恐れている、ってとこだが、観察が公的じゃない理由も同じ。その意味じゃ、免疫のあるウルヴズは最適な道具のはずなのに、駆り出されるのは対密猟者のみってのはおかしいだろ」
「そのせいで深夜は危険な目にあったってのに。SS対策なんて政治家がやれっての」
「まあ、その辺は俺たちには想像もつかないことがあれこれあるんだろ?で、更には今世紀初頭の冥王症の流行、そしてテイアの成功だからな」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

絵馬深夜(えましんや)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部一年生


野宮萌(ののみやもゆ)

深夜の同級生で、野宮伝の妹。

景清(かげきよ)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

八島(やしま)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

新聞編集営業配達部部長。

呉服(くれは)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

新聞編集営業配達部副部長。


砧(きぬた)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

田村(たむら)

長野県警の刑事(警部)。

ノンキャリア。

長野県警の刑事(警部補)。

キャリア。

雨月一陽(うげついちよう)

公立雨月学園御代田中等教育学校校長。

〝Es ist Kain!〟の著者。

安宅(あたか)

公立雨月学園御代田中等教育学校教頭。

水無瀬微笑(みなせほほえみ)

公立雨月学園御代田中等教育学校中等部二年生。

厨二病。

野宮伝(ののみやつたう)

赤帽ドライバー。

萌の兄。

雨月一陽とは同窓生。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み