13. 〝道成寺〟-1
文字数 935文字
「カスケード?」
「『カスケード反応』ってのは、複合的な『風が吹けば桶屋が儲かる』だ。それを、オオカミ導入を起点とした生態系や環境の変化に援用したのが、『ウルフカスケード』で、それをさらにもじったのが『ウルヴズカスケード』だ。"Es ist Kain!"との共通点を言ったが、開設は『月は見ている』の方が先のようだから、校長が『月は見ている』を参考にしたと考えるべきだ」
「はっ、真似っこが」
「オオカミ導入自体、イエローストーンの真似だ。日本でオオカミ再導入の議論が起きた要因の一つは、シカ害だ。ニホンオオカミが絶滅し、天敵のいなくなったシカが増えすぎたため、農林業で大きな被害が出た。沖縄でのハブ対策のマングース導入のような失敗も懸念されたが、推進論者の主張は、『オオカミはもともと日本にいた』ってものだった。それはある部分では正しかった。シカは確かに減ったし、生物多様性も上がった。でも、カスケード反応ってのは、一つの原因で複数の結果が生じるものだ。ましてニホンオオカミは、百年前からタイムスリップしてきたみたいなもんだからな。時空に歪みが出るのも当然。不連続な生物多様性に始まり、町の開発や法律の整備など。例えば、サンラインの北側では農地法の規制が厳しくなる一方、南側にはオオカミ特需を狙った店舗や施設が乱立。急激な人口増加に伴い、道の駅、郵便局、銀行などの公共施設。更には佐久署、軽井沢署、小諸署から浅麓署が分離創設された。そして、地域密着型の先端医療を標榜する浅麓医療センターまで。『ウルヴズカスケード』はそういう諸々が重なった一種の堆積物だ。ポンペイの人型みたいに、オルフェウスを含む核心の部分だけが空洞になっている。政治的な圧力や学説の断層により変形しているが、その分かえって空洞の内部構造が推測できる。その意味では空洞っていうより化石か。まあでも、その辺のことはエマの方が俺より詳しいだろ?」
「深夜先輩が?」
「ああ、テイアは現在、道成寺八重子 、今の文科省大臣だ、が創設した特許管理会社、D-NAによって管理されている。そして道成寺文科大臣の母親で、テイアの開発者の一人、道成寺圓 博士を看取ったのがエマだ」
「『カスケード反応』ってのは、複合的な『風が吹けば桶屋が儲かる』だ。それを、オオカミ導入を起点とした生態系や環境の変化に援用したのが、『ウルフカスケード』で、それをさらにもじったのが『ウルヴズカスケード』だ。"Es ist Kain!"との共通点を言ったが、開設は『月は見ている』の方が先のようだから、校長が『月は見ている』を参考にしたと考えるべきだ」
「はっ、真似っこが」
「オオカミ導入自体、イエローストーンの真似だ。日本でオオカミ再導入の議論が起きた要因の一つは、シカ害だ。ニホンオオカミが絶滅し、天敵のいなくなったシカが増えすぎたため、農林業で大きな被害が出た。沖縄でのハブ対策のマングース導入のような失敗も懸念されたが、推進論者の主張は、『オオカミはもともと日本にいた』ってものだった。それはある部分では正しかった。シカは確かに減ったし、生物多様性も上がった。でも、カスケード反応ってのは、一つの原因で複数の結果が生じるものだ。ましてニホンオオカミは、百年前からタイムスリップしてきたみたいなもんだからな。時空に歪みが出るのも当然。不連続な生物多様性に始まり、町の開発や法律の整備など。例えば、サンラインの北側では農地法の規制が厳しくなる一方、南側にはオオカミ特需を狙った店舗や施設が乱立。急激な人口増加に伴い、道の駅、郵便局、銀行などの公共施設。更には佐久署、軽井沢署、小諸署から浅麓署が分離創設された。そして、地域密着型の先端医療を標榜する浅麓医療センターまで。『ウルヴズカスケード』はそういう諸々が重なった一種の堆積物だ。ポンペイの人型みたいに、オルフェウスを含む核心の部分だけが空洞になっている。政治的な圧力や学説の断層により変形しているが、その分かえって空洞の内部構造が推測できる。その意味では空洞っていうより化石か。まあでも、その辺のことはエマの方が俺より詳しいだろ?」
「深夜先輩が?」
「ああ、テイアは現在、道成寺