16. 〝君死にたまふことなかれ〟-1

文字数 824文字

「あ」と呟いて深夜が目を伏せる。萌が「その辺の話はやめろって」と砧を睨んだ。
「どういうことですか?」
「微笑には関係ないよ」
「ないことはないだろ?オルフェウスの開発者の一人だぞ」
「そりゃそうだけど、リハビリ中の具体的なことは」
「事実は事実として知るべきだ。エマが道成寺博士を看取ったことも、リハビリ中、病院から近いからって良く行ってたしゃくなげ公園で大学生に襲われて、その大学生が死んだことも」
「キモオタ!」
「萌ちゃん、大丈夫。私が倒れて気を失ってる間に終わってたし、誰かが助けてくれたみたいだけど、結局わからずじまいだし」
「相手の目的ははっきりしないが、襲った大学生は、テイアの副作用で治療中ってことになってた」
「なってたってどういうことですか?」
「本当はおそらくオルフェウスの副作用だ。だが、国はニホンオオカミ同様、オルフェウスの存在自体を認めていない。テイアの稀な副作用とした方がまだましなんだろ?もっとも、それさえ公式な見解じゃない。で、結局事件自体も被疑者死亡で曖昧に終わった」
「そうだったんですか。深夜先輩も大変だったんですね」
「当たり前じゃん!」
 萌が怒鳴った。
「右目、右手、右足を真昼からもらって移植したんだ!二十歳までに歩けるようになれば奇跡とか言われてたのを、一年半でちょっと見ただけじゃわからないレベルまで回復したんだよ?並大抵じゃないよ」
「萌ちゃん!」
「でも、深夜」
「私には、萌ちゃんがいたから。一緒にいてくれて、いつも支えてくれた」
「でも、あたしはあの時」
「二十四時間三百六十五日一緒なんて無理。でも、萌ちゃんがいてくれる、って思うだけでも心強かった。もちろん、今も」
「深夜」
「深夜先輩、萌先輩」
「今関係ない話はおいといて」
「空気読め!」
「とにかく、〝月〟は多方面から堆積物を寄せて、情報の化石を作った。俺たちが参加したあの講演会も、冥王症の化石を作る作業の一環だったはずだ」
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登場人物紹介

絵馬深夜(えましんや)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部一年生


野宮萌(ののみやもゆ)

深夜の同級生で、野宮伝の妹。

景清(かげきよ)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

八島(やしま)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

新聞編集営業配達部部長。

呉服(くれは)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

新聞編集営業配達部副部長。


砧(きぬた)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

田村(たむら)

長野県警の刑事(警部)。

ノンキャリア。

長野県警の刑事(警部補)。

キャリア。

雨月一陽(うげついちよう)

公立雨月学園御代田中等教育学校校長。

〝Es ist Kain!〟の著者。

安宅(あたか)

公立雨月学園御代田中等教育学校教頭。

水無瀬微笑(みなせほほえみ)

公立雨月学園御代田中等教育学校中等部二年生。

厨二病。

野宮伝(ののみやつたう)

赤帽ドライバー。

萌の兄。

雨月一陽とは同窓生。

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