17. 〝君死にたまふことなかれ〟-2

文字数 663文字

「ご存じありませんでしたか?」
「うん。まあ、でも、本人が言いたくないことは知る必要もないかな」
「そうですか。ともかく、テイアの成功の後の道成寺夫妻は、表に出ることを好みませんでした。十年ほど前、夫の卓博士が亡くなり、九重彦氏が表に出るのに反比例するように圓博士は世間から忘れられていきました。長野に戻ってくる頃には、既に癌に侵されていたようです」
「お元気そうに見えたんだけどね」
「引越して数か月後には浅麓医療センターに入院。妹さんの友達、絵馬深夜さんと同室だったのもご存知ですよね」
「ああ。シンちゃんのお見舞いに行ったときにお会いしたよ」
「入院後、ひと月経たずに死去。葬儀も含め、一線で活躍した研究者とは思えない、ひっそりとした晩年でした」
「入院していた病院の先生や看護師さんのほとんどは道成寺博士を知っていたようだ。でも、だからこそ気を遣って、情報が外に出ないようにしていたような気もする」
「医療関係者のほとんどは、口に出さないだけでテイアの功罪をわかっているでしょうしね」
「でも、いい人だったよ。こっちに来る時あれこれ話したけど、穏やかで、お客なのに運転手の俺に気を遣ってくれる優しい女性だった。それに、リハビリ中のある事件でシンちゃんが辛かった時は、自分の孫のように泣いてくれていたみたいだしね」
「ある事件とは?」
 タブレットを通した質問に、伝は少し間を置いてから答えた。
「それは言わなくてもいいよね?」
「では俺が代わりに答えましょう。絵馬深夜さんが、帰省中の大学生に襲われた事件、ですよね?」
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登場人物紹介

絵馬深夜(えましんや)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部一年生


野宮萌(ののみやもゆ)

深夜の同級生で、野宮伝の妹。

景清(かげきよ)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

八島(やしま)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

新聞編集営業配達部部長。

呉服(くれは)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

新聞編集営業配達部副部長。


砧(きぬた)

公立雨月学園御代田中等教育学校高等部三年生。

田村(たむら)

長野県警の刑事(警部)。

ノンキャリア。

長野県警の刑事(警部補)。

キャリア。

雨月一陽(うげついちよう)

公立雨月学園御代田中等教育学校校長。

〝Es ist Kain!〟の著者。

安宅(あたか)

公立雨月学園御代田中等教育学校教頭。

水無瀬微笑(みなせほほえみ)

公立雨月学園御代田中等教育学校中等部二年生。

厨二病。

野宮伝(ののみやつたう)

赤帽ドライバー。

萌の兄。

雨月一陽とは同窓生。

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