第22幕・天井
文字数 1,629文字
セルゲイは,メインスタッフとともに司令部のブリーフィングルームで,テレビ会議システムでバークレーチームからの中間報告を聞いていた。
ミシェルは,隣の席に座っているセルゲイが机に両肘を立てて寄りかかり,両手を口元にして表情を隠していることに気付き,事態の深刻さを憂慮していた。
バークレーチームは,ニーチェの第二の論文に絞った解析を行っていた。
そのバークレーチームがもたらした解析の結果は,ニーチェの第二の論文には矛盾点はなく,肯定される可能性が極めて高いとのものだった。
セルゲイは,奥歯をギリっと噛みしめた後,バークレーチームに,これまでの奮戦に対して感謝し,3カ月後の最終報告を待っていることを伝えて,テレビ会議のスイッチを切った。
その後,ミシェルに依頼して,オックスフォードのシャーロット・スチュアートを呼び出した。
シャーロット・スチュアートは,ニーチェの論文が発表された際に,回路計算量や代数化以外の専門家が必要になると判断したセルゲイが,統計学の学位を持つ志緒里に紹介してもらった新進気鋭の統計学者である。
セルゲイは,シャーロットにニーチェの論文の統計処理について意見を求めた。
それに対して,シャーロットは,「ニーチェは志緒里じゃないの?だって,彼女の論文の特長がちょいちょい出ているもの。特に,この言い回しなんかね」と言いながら,ニーチェの論文に下線を引いた。
彼女が下線を引いた箇所は,情報部がニーチェの文章解析の際にもピックアップした箇所だった。
しかし,セルゲイは,シャーロットの見立てに対して疑問をぶつけた。
「では,この箇所のロシア語訛りも志緒里の特長か?」
それに対してシャーロットは,「う~ん,たしかに志緒里の英文にはロシア語の訛りはなかったわねぇ。」と頷きながら応じた。
セルゲイはため息をつきながら,「シャーロット,我々は君にニーチェの正体を暴く探偵役をお願いしたわけではないのだが,本題の方はいかがかな?」と問いかけた。
「ごめんごめん。
ニーチェの論文があんまりにも志緒里の論文に似ていたからつい,ね。
では,本題を。」
と少々ばつが悪そうに応じた後,シャーロットは真剣な表情で本題を切り出し始めた。
「結論から言うと,ニーチェの論文の統計処理については,全く問題はないわね。
この手法は,志緒里がハーバードで学位をとった論文で提案したものよ。
志緒里の手法をP≠NPの証明に適用しようと考えついたニーチェはまさに天才ね。恐れ入りました。フィールズ賞も間違いなしね。
参りました。降参です。」といって,シャーロットは両手を上げた。
「それと,推測だけど,たぶんニーチェは,具体的な例題が知られているNP完全問題の分析から最初の論文の証明にたどり着いていると思うわ。」と続けた。
「その根拠は?」とセルゲイが問うと,
シャーロットは「だって,どんな天才だって,アイディアがあったとしても,1月も経たない期間で,世界を揺るがすほどの論文を2編も執筆できるわけないじゃない。
ニーチェは第一の論文を書く前に,第二の論文の骨子は完成させていたはずよ。」
それを聞いたセルゲイは,「そうだな,私もそう思う」と応じた。
セルゲイは,ため息を付いた後,「ニーチェが新しい論文を発表したらその解析をお願いしたい」とシャーロットに伝えた。
シャーロットは「親友の志緒里の紹介だからね。引き受けるわ。」とウィンクしながら応じた。
セルゲイは,シャーロットに謝意を伝えて,テレビ会議のスイッチを切り,椅子の背にもたれかかりながら天井を見た。
そんなセルゲイを見ながら,ミシェルは,「司令,コンディション・レッドの発令は?」と意見具申した。
それを聞いたセルゲイは,「今はその時ではない。あと,二年あるのだから。」と力なく天井を見ながら答えた。
ミシェルは,隣の席に座っているセルゲイが机に両肘を立てて寄りかかり,両手を口元にして表情を隠していることに気付き,事態の深刻さを憂慮していた。
バークレーチームは,ニーチェの第二の論文に絞った解析を行っていた。
そのバークレーチームがもたらした解析の結果は,ニーチェの第二の論文には矛盾点はなく,肯定される可能性が極めて高いとのものだった。
セルゲイは,奥歯をギリっと噛みしめた後,バークレーチームに,これまでの奮戦に対して感謝し,3カ月後の最終報告を待っていることを伝えて,テレビ会議のスイッチを切った。
その後,ミシェルに依頼して,オックスフォードのシャーロット・スチュアートを呼び出した。
シャーロット・スチュアートは,ニーチェの論文が発表された際に,回路計算量や代数化以外の専門家が必要になると判断したセルゲイが,統計学の学位を持つ志緒里に紹介してもらった新進気鋭の統計学者である。
セルゲイは,シャーロットにニーチェの論文の統計処理について意見を求めた。
それに対して,シャーロットは,「ニーチェは志緒里じゃないの?だって,彼女の論文の特長がちょいちょい出ているもの。特に,この言い回しなんかね」と言いながら,ニーチェの論文に下線を引いた。
彼女が下線を引いた箇所は,情報部がニーチェの文章解析の際にもピックアップした箇所だった。
しかし,セルゲイは,シャーロットの見立てに対して疑問をぶつけた。
「では,この箇所のロシア語訛りも志緒里の特長か?」
それに対してシャーロットは,「う~ん,たしかに志緒里の英文にはロシア語の訛りはなかったわねぇ。」と頷きながら応じた。
セルゲイはため息をつきながら,「シャーロット,我々は君にニーチェの正体を暴く探偵役をお願いしたわけではないのだが,本題の方はいかがかな?」と問いかけた。
「ごめんごめん。
ニーチェの論文があんまりにも志緒里の論文に似ていたからつい,ね。
では,本題を。」
と少々ばつが悪そうに応じた後,シャーロットは真剣な表情で本題を切り出し始めた。
「結論から言うと,ニーチェの論文の統計処理については,全く問題はないわね。
この手法は,志緒里がハーバードで学位をとった論文で提案したものよ。
志緒里の手法をP≠NPの証明に適用しようと考えついたニーチェはまさに天才ね。恐れ入りました。フィールズ賞も間違いなしね。
参りました。降参です。」といって,シャーロットは両手を上げた。
「それと,推測だけど,たぶんニーチェは,具体的な例題が知られているNP完全問題の分析から最初の論文の証明にたどり着いていると思うわ。」と続けた。
「その根拠は?」とセルゲイが問うと,
シャーロットは「だって,どんな天才だって,アイディアがあったとしても,1月も経たない期間で,世界を揺るがすほどの論文を2編も執筆できるわけないじゃない。
ニーチェは第一の論文を書く前に,第二の論文の骨子は完成させていたはずよ。」
それを聞いたセルゲイは,「そうだな,私もそう思う」と応じた。
セルゲイは,ため息を付いた後,「ニーチェが新しい論文を発表したらその解析をお願いしたい」とシャーロットに伝えた。
シャーロットは「親友の志緒里の紹介だからね。引き受けるわ。」とウィンクしながら応じた。
セルゲイは,シャーロットに謝意を伝えて,テレビ会議のスイッチを切り,椅子の背にもたれかかりながら天井を見た。
そんなセルゲイを見ながら,ミシェルは,「司令,コンディション・レッドの発令は?」と意見具申した。
それを聞いたセルゲイは,「今はその時ではない。あと,二年あるのだから。」と力なく天井を見ながら答えた。