第14幕・招待状
文字数 1,080文字
12月28日,今日は結菜と志緒里の家族の月に一度の食事会の日である。
ちなみに,馴染みのお店の関係者一同は,セルゲイと伸治の家族の食事会とは呼んでいない。その理由は言を俟たないであろう。
今回は,志緒里の門下生の一人である大江彰が,オーナーシェフとして独立して一周年の記念と,三ツ星獲得の記念も兼ねたパーティーでもある。
もともと席数が少ないレストランなのだが,今日の客は,志緒里の一家と結菜の一家の6人だけの貸し切りだった。
きっかけは,大江から志緒里に感謝状ともに招待券とドレス費が届いたことだった。
志緒里のところには,このようなものが年に数回届く。
なぜなら,志緒里は,常日頃,門下生に対して「深淵に一歩でも近づけたと感じたら,その時は私を呼びなさい」と言っていた。
彼女にとっては,純粋な好奇心と探求心からの言葉なのだが,門下生にとっては最終卒業試験とも言えた。
最終卒業試験に臨む門下生は,日本いや世界の料理界の頂点の一人でもあるのだが,弱冠20歳でアメリカの料理界でマジシャンの二つ名で呼ばれた志緒里の眼鏡にかなう者は10人に1人いるかいないかといった有様であった。
場合によっては,その場で志緒里の手直しを受ける門下生までいた。その時に門下生が受ける衝撃は筆舌に尽くしがたいものだった。
門下生にとっては,志緒里に対して決闘を申し込むことと等しい最終卒業試験であった。
そして,いつしか決闘の際に手袋を投げつけるかのように,門下生から志緒里に感謝状ともに招待券とドレス費を贈る伝統が生まれた。
『ドクター,あなたが求める深淵に,私の料理でお連れします。』
『ドクターには,それに相応しいドレスを纏って頂きます。という決意とともに。』
志緒里も門下生たちに粋を感じて,最高のドレスを纏って決闘の場に赴くのであった。
無二の親友,息子,それに未来の義娘を引き連れて。それと,おまけの旦那’sも。
なお,志緒里と結菜のドレスとスーツのチョイスは,常に杏のドレスが引き立つように選んでいた。
今夜の杏のドレスは,ワインレッドのタイトドレスである。
しかし,そんなドレスも杏にかかれば,床を埋め尽くす紙屑にアクセントを加えるオブジェと化す。
27日に杏の手元に届いたドレスの箱が,床に転がっているのを見て,結菜は深いため息を吐く。
結菜の視線の先の杏は勉強机に突っ伏して寝ていた。
時々,ニヤニヤしているのは,夢でも見ているのだろう。
勉強机の上の時計は10時を指そうとしていた。
ちなみに,馴染みのお店の関係者一同は,セルゲイと伸治の家族の食事会とは呼んでいない。その理由は言を俟たないであろう。
今回は,志緒里の門下生の一人である大江彰が,オーナーシェフとして独立して一周年の記念と,三ツ星獲得の記念も兼ねたパーティーでもある。
もともと席数が少ないレストランなのだが,今日の客は,志緒里の一家と結菜の一家の6人だけの貸し切りだった。
きっかけは,大江から志緒里に感謝状ともに招待券とドレス費が届いたことだった。
志緒里のところには,このようなものが年に数回届く。
なぜなら,志緒里は,常日頃,門下生に対して「深淵に一歩でも近づけたと感じたら,その時は私を呼びなさい」と言っていた。
彼女にとっては,純粋な好奇心と探求心からの言葉なのだが,門下生にとっては最終卒業試験とも言えた。
最終卒業試験に臨む門下生は,日本いや世界の料理界の頂点の一人でもあるのだが,弱冠20歳でアメリカの料理界でマジシャンの二つ名で呼ばれた志緒里の眼鏡にかなう者は10人に1人いるかいないかといった有様であった。
場合によっては,その場で志緒里の手直しを受ける門下生までいた。その時に門下生が受ける衝撃は筆舌に尽くしがたいものだった。
門下生にとっては,志緒里に対して決闘を申し込むことと等しい最終卒業試験であった。
そして,いつしか決闘の際に手袋を投げつけるかのように,門下生から志緒里に感謝状ともに招待券とドレス費を贈る伝統が生まれた。
『ドクター,あなたが求める深淵に,私の料理でお連れします。』
『ドクターには,それに相応しいドレスを纏って頂きます。という決意とともに。』
志緒里も門下生たちに粋を感じて,最高のドレスを纏って決闘の場に赴くのであった。
無二の親友,息子,それに未来の義娘を引き連れて。それと,おまけの旦那’sも。
なお,志緒里と結菜のドレスとスーツのチョイスは,常に杏のドレスが引き立つように選んでいた。
今夜の杏のドレスは,ワインレッドのタイトドレスである。
しかし,そんなドレスも杏にかかれば,床を埋め尽くす紙屑にアクセントを加えるオブジェと化す。
27日に杏の手元に届いたドレスの箱が,床に転がっているのを見て,結菜は深いため息を吐く。
結菜の視線の先の杏は勉強机に突っ伏して寝ていた。
時々,ニヤニヤしているのは,夢でも見ているのだろう。
勉強机の上の時計は10時を指そうとしていた。