第23幕・リビングダイニング

文字数 871文字

 部屋から出てきた漣は杏に連れられて,リビングダイニングに向かった。
 漣は杏の後ろ姿を見ながら,観測誤差はない=神の視点について考えを巡らしていた。

 ダイニングテーブルの上には4つの年越しそば,漣の席の足元にはオイラーの食事が用意されていた。
 志緒里と伸治は席について二人を待っていた。

 漣は蕎麦の香りに,今日が大晦日であることを思い出した。

 漣と杏がいつもの席に着いてから,志緒里の音頭で,「今年も一年お世話になりました来年もよろしくお願いします」と唱和してから,年越しそばを食べ始めた。

 漣は,年越しそばを食べながら,そういえば,杏と年越しそばを食べるのは初めてだなと気づいた。

 そんなとき,一足先に年越しそばを平らげた伸治が志緒里に問いかけた。
 「年越しそばは,杏ちゃんが作ったの?美味しいね。」

 「ありがとうございます。もっとも,ママに頼まれて持ってきた贈答品の年越しそばを茹でてだし汁を温めただけですよ。トッピングは冷蔵庫にあった志緒里ママの作り置きおかずを拝借しました。」と,杏は照れながら,伸治に答えた。

 年越しそばを食べ終えた志緒里は,杏をバックハグしながら自分の顔を彼女の顔に擦りつけ,「杏ちゃんの年越しそばは三ツ星よぉ,漣,ちゃんと褒めなきゃだめよぉ」などと言いながらじゃれついていた。

 これには志緒里ファンの杏も流石に迷惑そうだった。

 なんとなく,杏からヘルプを乞う雰囲気を漣は感じながら,足元のオイラーに,『お前のご主人様が襲われているぞ』とアイコンタウト送る。しかし,夕飯を食べ終えたオイラーは,大きなあくびをしてから,杏がもってきたキャリーバックに歩き出し,その中で眠りだした。
 そんなオイラーを見ながら,漣は,『杏よ,オイラーは君を見放したようだなぁ』と心の中でお悔やみを申し上げていた。

 すると,志緒里は,「結菜たちと合流して初詣に行くわよ!」と号令をかけた。

 スリスリを十分に堪能した志緒里は満面の笑顔,エネルギーを吸い取られた杏は少々お疲れ気味だった。
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