第32幕・三者三様 その2

文字数 1,225文字

 My HOMEでの夕飯が粗方済んだ頃を見計らって,セルゲイはそっと論文が印刷されたA4用紙を数枚テーブルの上に差し出して漣と杏に問いかけていた。「ところで,この論文は漣くんと杏が書いたものかなぁ?」

 するとアイスクリームを食べていた杏が「そうよ」と事も無げに答えた。「漣が論文の骨子を書いて,私が英訳したの。ところどころで,論文の内容に意見は言ったけどね。」と

 それを聞いたセルゲイは,やはり,そうなのか?。だが,漣,『それは嘘だ』と言ってくれといった表情をしながら,「そうなのか?」とセルゲイは漣に問いかけた。

 しかし,セルゲイの期待に反して漣は,「うん。初詣の時に,杏に論文のアイディアを伝えたら,今すぐに論文を発表すべきと言われて,ただ,英語だけは苦手だったので杏に手伝ってもらった。杏を共著者にしたのは,杏の意見も論文に反映されているから。」
 とケロリと答えた。

 それを聞いた結菜は身を乗り出して漣に問い詰めた。「じゃぁ,年明けから杏が漣くんの部屋に入り浸っていたのは論文を書くためだけ?」

 漣は,結菜の迫力に圧倒されながらも,「だけではないなぁ。。。。杏はゲームもしていたからなぁ。。。。」と杏を横目で見ながら答えた。

 すると杏が,
 「そう,新さんが大暴れするゲーム!!!」
 「並みいる敵を,バッタバッタとなぎ倒し,画面狭しと暴れまわるのぉ!」
 「まさに,暴れん坊将軍!!新さん!!」
 「あぁ,またやりたくなってきた!!!週末,漣の部屋に行ってもいい?」
 と畳みかけるように答えた。

 漣は,自信満々に答える杏を横目で見ながら,冷めた目で「いいけど,飽きもせず古いゲームを。。。。。」と指摘すると,杏は,「いいの。新さん!無双である!!」と平らな胸を張って答えた。

 そんな二人の遣り取りを聞きながら,志緒里は眉間に人差し指を当てながら再確認した。
 「つまり,杏ちゃんは,ゲームを目当てに漣の部屋に入り浸っていたの?論文はそのついで?」

 それに対して杏は,天井を見上げながら指をあごにあてながら,「うーん,どちらかというと,志緒里ママの昼ご飯とおやつがメイン,ゲームがサブメイン,論文はお仕事かなぁ。」と事も無げに杏が答えた。

 それを聞いたセルゲイは父としてはホッとしたが,教会連合軍の司令官としては苦虫を潰していた。なぜだ。よりにもよって,漣と杏が大いなる父の存在を否定するような論文を発表したんだと。

 その一方,結菜と志緒里は悲嘆にくれた。

 しかし,こんなことでめげる結菜と志緒里ではない。
 今回は,そもそも棚ぼた的な話であったではないか!
 自ら何も努力していないのに,その結果を嘆くとは!!
 次こそ,色っぽい話になるように最大限の努力をしようと目と目で語り合っていた。

 因みに,彼女らが言うところの努力とは,一般的には謀略と言うことは論を待つまでもないであろう。
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