第9幕・宗教裁判

文字数 1,801文字

 宗教裁判とは,教義や見解に基づいて行われる裁判手続のことである。
 有名なところとしては,ガリレオ・ガリレイの地動説に基づく裁判であろう。ガリレオはデカルトのように仮面を被っていればお咎めを受けなかった。しかし,彼は仮面なしで,真っ向から聖書墨守主義者と地動説の論争を繰り広げ,悲劇的な結末を迎えた。ガリレオもデカルトのように,聖書墨守主義の一員のふりをすればあのような悲劇は迎えなかったであろう。
 そして,今ここに,杏裁判長による,杏主義に基づく,宗教裁判が開廷されようとしている。被告人は,パッキン美女を連れて夕飯前にお寿司を食べた不心得者,セルゲイと漣である。
 セルゲイと漣は,まさに,デカルトになれるかが問われていた。

 杏裁判長のややドスの効いた言葉を皮切りに裁判は開廷された。

 「さて,まずは,大切なママ達が作る夕飯前に,お寿司を食べた理由を伺いましょうか?まさか,お寿司でお腹一杯になったから,夕飯はパスなんて言わないわよねぇ?しかも,パッキン美女と一緒だったとはねぇ。」

 セルゲイは,事態を早期に収束させるために,裁判長に悔恨の情を伝えようとしたその時に,もう一人の被告人である漣が裁判長に反論を開始した。

 「ミシュルさんから電話で,ニーチェについて意見を聞きたいとおじさんが言っていると聞いたときに,小腹が減っていると伝えたら,大将のお寿司でも食べながらにしようと言われてここに来たんだよ。確かに大将のお寿司は美味しかったから十二貫ほど食べたけど,夕飯が食べられないほどではお腹一杯ではないね。散歩がてら40分くらい歩いて帰宅すれば腹も減るかな。」
 
 漣の反論を聞きながら,セルゲイは,これが若さ故の過ちかと心の中で呟いた。
 違うんだ漣!杏は,杏が知らない金髪美人と一緒にお寿司を食べたことを責めているんだ。お前の反論は,火に油を注ぐぞ。しかも,ミシェルをさん付けで呼ぶとは。
 なぜ,大将のお寿司は3つ星に相応しい味で,間食としては食べ過ぎていた。ごめんなさいと懺悔できない。なぜお前は仮面を被れない。
 
 「ふ~ん。ミシェルさんって言うんだぁ。(* ̄- ̄)」
 「ミシェルさんはお父さんの職場の人?」と杏はミシェルに問いかけた。

 急に話を振られたミシェルは,はっと我に返り,杏のオーラに気圧されながら

 「ええ,セルゲイさんの職場の同僚のミシェルと言います。」
 「あなたはセルゲイさんの娘さんの杏さん?」と応じた。

 少し怪訝な顔をしながら杏は,「そうだけど,なぜ私を知っているの?」とミシェルに更に問いかけた。

 ミシェルは冷静さを装いつつ「お父様の机の上に杏さんの写真があったので」と答えた。

 そんな,ミシェルを眺めながら杏は,「ふ~ん。で,ニーチェってなに?」と質問を重ねた。

 ミシェルは公開情報だけなら問題ないと判断して,「最近,プレプリントサイトに投稿されたP≠NP問題の論文の筆者のことよ。お父様はミレニアム数学振興事業団の理事長なので,ニーチェに興味があって,漣くんの意見が聞きたいと言われて,私がここの段取りをしたの。漣くんが,お腹がへっていると言っていたので。」と答えた。

 それを聞いた杏は,「ふ~ん。」と言いながら,杏はニヤニヤしながら自分の鼻の頭を指で掻いていた。(#^^#)(#^.^#)
 
 漣は,怪しくニヤニヤしている杏に逆襲すべく「なに,ニヤニヤしているんだよ杏。ニーチェについて何か知っているのか?」と問い質した。

 「別に」と答えた杏が,再び,裁判長の顔を取り戻しながら,とってもドスの効いた口調で,「で,なぜ,漣はミシェルさんのことを知っているの?」と,漣に顔を近づけるながら,杏は詰問を続けた。

 これを皮切り,漣は杏から,根掘り葉掘りと小一時間ほど尋問を受けた。漣は哀れなガリレオとなったのだ。

 その様子を見ながら,セルゲイは,自分は釈放されたと思った。実は,セルゲイは,背中に嫌な汗が出ていることを自覚していた。なぜならば,大将のお寿司は3つ星に相応しい味で,間食としては食べ過ぎていたのだ。ガチで。20代のころならば,16時すぎにお寿司を十貫食べても,19時ごろの夕飯は問題なく完食出来たが,今は?と問われると,ぐうの音も出なかったのだ。結菜,すまないと心の中で詫びた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み