第26幕・出店

文字数 815文字

 参拝を終えた伸治は,セルゲイ達に挨拶してから足早に職場に戻っていった。
 志緒里も,伸治のお店のカウントダウン・イベントの料理を監修していたので,伸治とともにタクシーに乗り込んで行った。

 二人を見送った杏は,くるりとターンして振り向き,「漣と出店を回ってから帰る」と,結菜とセルゲイに伝えた。

 それを聞いたセルゲイは目を丸くして驚いた。どうして?なぜ?何があった?と

 一方,結菜は満面の笑顔になり,「漣くん,うちの杏をよろしくね。二人が大岡山に帰ってきたら,みんなでお雑煮を食べましょうね」と言って,セルゲイの腕を強引に引張って歩き出した。
 長身のロシア人・セルゲイが,結菜にグイグイと曳かれて参道を連れていかれる様子は目立つためか,衆目の的になっていた。そのため,セルゲイは大人しく結菜にドナドナのように連れていかれたが,その顔は,漣に何かを言いたそうであった。

 邪魔な大人たちが視界から消えたことを確認した杏は,これからの出店タイムに心を弾ました。
 そして,フフフと不敵な笑みを浮かべながら,
 「さて,漣,わたしは綿飴が食べたいなぁ。袋は,ピンク色の可愛いのがいいななぁ。」
 「あと,アツアツのたこ焼きと,フランクフルトも食べたいなぁ。」
 と言った。

 それを聞いた漣は,内心『太るぞと突っ込み』をいれたが,杏は間髪入れずに,
 「でも,全部食べると多すぎるし,太るから,たこ焼きとフランクフルトは,一口,うんうん三口食べたら,残りは漣が食べてくれるよねぇ。」
 と,わざとらしく可愛い仕草で漣に問いかけた。
 しかも,ウィンク付きで。

 漣は,眉をピクピクとさせながらも,杏の非道な要求を聞いていた。
 今日だけで,どれだけ財布が軽くなるかを想像しながら。

 杏は,そんな漣の様子を堪能しながら,満面の笑顔を浮かべて,「さぁ,各々方,出店に出陣じゃぁ!」と腕を突き上げながら声を掛けた。
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