第30幕・MIKAMI RenとKOUSAKA An

文字数 1,087文字

 セルゲイは,タクシーに乗って結菜がLINEで指示した店に向かっていた。
 タクシーに揺られながら,セルゲイは,シャーロットにMIKAMI RenとKOUSAKA Anの論文の検証を依頼した時の会話を思い出していた。

 テレビ電話の向こう側のシャーロットは目を丸くしながら,
『あらあら,またしても志緒里の論文のそっくりさん。
 今回の論文も統計処理の手法に志緒里のメソッドを利用しているのねぇ。
 最近,日本ではこういうスタイルの論文が流行っているのかしら?』とセルゲイに問いかけた。

「私は聴いたことがないな。
 ただ,うちの情報部の文章解析官が文章解析を行ったところ,この論文には,ニーチェ特有のロシア語と日本語の訛りに似た表現があるそうだ。ただし,異なる点としてニーチェの文章に比べて,ロシア語訛りが少ないとも言っていた。
 分析官は冗談めかして,ニーチェの文章を日本人が修正したのではないかとも言っていたよ。」と事務的に応じた。

 セルゲイの反応に,つまらない男だなぁと思いながらシャーロットは会話を続けた。
『ふーん。
 ところで,KOUSAKA Anは,志緒里の友人・結菜とセルゲイの娘さんじゃないの?
 だとすれば,ロシア語と日本語の訛りは説明が付くんじゃないの?
 MIKAMI Renが,志緒里の息子の漣くんならロシア語訛りが少ないこともね。』
「そうだなぁ。」
『しかし,志緒里がいつも自慢している漣くんのフィアンセ・杏ちゃんにご対面する前に,二人の共同作業を拝見することになるとはねぇ。
 漣くんも隅に置けないわねぇ。』
「まだ,漣と杏の二人とは確定していない。これから聴きに行くのだからなぁ。」
『でも,セルゲイも薄々は気が付いているのでしょ。MIKAMI RenとKOUSAKA Anは,三上漣と高坂杏であると。
 ただ,認めたくないだけじゃないの。
 教会連合軍の司令官の娘とその将来の夫が,大いなる父の存在を否定するような論文を発表したことを。』

 図星を刺されたセルゲイはやや不機嫌な顔をしながら,「シャーロット,先日も言ったが,我々は君に探偵をお願いしたわけではないのだが。今回の依頼を引き受けてくれるのかな?」とシャーロットに問いかけた。

 そんなセルゲイの表情を見たシャーロットは,『ごめんごめん。野次馬根性を出し過ぎたわね。』と非礼を詫びた後,『ご依頼,謹んでお受けします。来週中に一報するわね。』と答えテレビ会議の回線を切った。

 そして気づけば,セルゲイを乗せたタクシーはウィンカーを出して道路脇に止まっていた。

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