第29幕・脅威判定
文字数 1,854文字
1月7日,今日は新学期が始まる日である。
セルゲイは,いつもの通り,毎朝の恒例行事をこなして涙目になった杏と電車に乗った。
もっとも,結菜のセリフに,「漣君と遊べないことを拗ねないの」,「そんなじゃ漣くんに愛想をつかされるわよ!」,「ママは恥ずかしい」など,セルゲイがかつて聞いたことがないフレーズが加わっていた。
それを聞く度に,オイラーに朝食を与えるセルゲイの手が震えた。
セルゲイは,年明けからの不穏な状況は未だに継続中であることを確認し,否応なしに昨日以上の動揺を彼に与えていた。
しかも,セルゲイの動揺に止めを刺すかのように,彼と杏が玄関から出かける間際に,結菜が「今日は会社を休んで,終日,志緒里と色々な段取りについて打ち合わせするから,夕飯は皆で外食にしましょうね。」とセルゲイと杏に声を掛けた。
それを聞いた杏は当然「志緒里ママも一緒よねぇ」と答え,結菜は「ザッツ・ライト!漣君もね!(^_-)-☆」と応じた。
「漣は別にいいのに~」と少し拗ねながら杏が言うと
「またまた,照れないの(^_-)-☆」と結菜がウィンクしながら応じていた。
そんな母娘の遣り取りを見ながら,セルゲイの心は更にざわついたのである。
そして何時にもなく,ボーとしている自分に気付いたセルゲイは両手で頬を叩き気合を入れてオフィスに向かった。
セルゲイはオフィスに到着し,副官のミシェルに声をかけ,セルゲイは教会連合軍の制服に着替え,司令長官の席に座った。
ミシェルは,セルゲイの着席を確認し,司令長官室のブラインドを下ろした後,セルゲイの隣の席に座った。そして,複数のモニターに世界各国に散らばったエージェントを呼び出した。
会議の冒頭,ミシェルは,最新情勢を確認することを目的に,昨日・1月6日にプレプリント投稿サイトに「ナビエ・ストークス方程式の解に関する考察」という論文が投稿されたこと,その著者がMIKAMI RenとKOUSAKA Anであること,セルゲイの指示によって当該の論文について東京大学チームに迅速解析を依頼したことを報告した。
モニター越しのエージェントの面々からは,「P≠NP証明」の次は「ナビエ・ストークス方程式の解」か。次から次へと,まるで蜂だな。しかし,この論文は,「ナビエ・ストークス方程式の解」の滑らかさについて直接言及はしていないのだろ。などの見解が述べられた。
これらの見解は,東京大学チームの迅速解析の見解に基づいていた。
だが,セルゲイは東京大学チームの報告書の末尾に記載されていた注意情報
「追加の論文で『観測誤差』について数学的な解決が行われた場合,ナビエ・ストークス方程式の解の解は滑らかではないことが証明される可能性がある。」
との記述に一抹の恐怖を感じていた。
もし,神も観測誤差なしに物体の運動を観測することが不可能であることが証明されたら,どうなる?神にとってもナビエ・ストークス方程式の解の解は滑らかではないことが証明されるのではないか?
敬虔な東方正教会の信者であるセルゲイにとっては不遜な考えではあるが,司令官としての理性が彼の内なる信仰心に問いかけてきた。
そして,内心の動揺を隠すように,机に両肘を立てて寄りかかり,両手を口元にして表情を隠しながら,「ナビエ・ストークス方程式の解に関する考察」の脅威判定を,東大チームの注意情報に基づいて,上から2番目のイエローとすると下命した。
それを聞いたメンバーは皆緊張した。
司令は,MIKAMI RenとKOUSAKA Anはニーチェ並みの脅威と判断したのかと。
そして,セルゲイは,各支部の責任者に対して検証チームの立ち上げについて指示を出した。ただし,論文の内容ではない。「如何なる者も観測誤差なしに物体の運動を観測することが不可能であることが証明される可能性について」である。
これを聞いた一同は目を見開いた。
そして,司令官の信仰心と理性との葛藤に思いをいたし,会議の出席者は一斉にセルゲイに敬礼した。
会議が終わり,ミシェルは,ブラインドを上げた後,セルゲイに紅茶を差し出しながら,「MIKAMI RenとKOUSAKA Anは,漣くんと司令のお嬢様ですよね」と確認した。
セルゲイは,天井を見ながら,「あぁ,おそらくは。本人たちに確認はしていないがね。」と手短に答えた。
そして,「シャーロット・スチュアートに,MIKAMI RenとKOUSAKA Anの論文の検証を依頼してくれ」と付け加えた。
セルゲイは,いつもの通り,毎朝の恒例行事をこなして涙目になった杏と電車に乗った。
もっとも,結菜のセリフに,「漣君と遊べないことを拗ねないの」,「そんなじゃ漣くんに愛想をつかされるわよ!」,「ママは恥ずかしい」など,セルゲイがかつて聞いたことがないフレーズが加わっていた。
それを聞く度に,オイラーに朝食を与えるセルゲイの手が震えた。
セルゲイは,年明けからの不穏な状況は未だに継続中であることを確認し,否応なしに昨日以上の動揺を彼に与えていた。
しかも,セルゲイの動揺に止めを刺すかのように,彼と杏が玄関から出かける間際に,結菜が「今日は会社を休んで,終日,志緒里と色々な段取りについて打ち合わせするから,夕飯は皆で外食にしましょうね。」とセルゲイと杏に声を掛けた。
それを聞いた杏は当然「志緒里ママも一緒よねぇ」と答え,結菜は「ザッツ・ライト!漣君もね!(^_-)-☆」と応じた。
「漣は別にいいのに~」と少し拗ねながら杏が言うと
「またまた,照れないの(^_-)-☆」と結菜がウィンクしながら応じていた。
そんな母娘の遣り取りを見ながら,セルゲイの心は更にざわついたのである。
そして何時にもなく,ボーとしている自分に気付いたセルゲイは両手で頬を叩き気合を入れてオフィスに向かった。
セルゲイはオフィスに到着し,副官のミシェルに声をかけ,セルゲイは教会連合軍の制服に着替え,司令長官の席に座った。
ミシェルは,セルゲイの着席を確認し,司令長官室のブラインドを下ろした後,セルゲイの隣の席に座った。そして,複数のモニターに世界各国に散らばったエージェントを呼び出した。
会議の冒頭,ミシェルは,最新情勢を確認することを目的に,昨日・1月6日にプレプリント投稿サイトに「ナビエ・ストークス方程式の解に関する考察」という論文が投稿されたこと,その著者がMIKAMI RenとKOUSAKA Anであること,セルゲイの指示によって当該の論文について東京大学チームに迅速解析を依頼したことを報告した。
モニター越しのエージェントの面々からは,「P≠NP証明」の次は「ナビエ・ストークス方程式の解」か。次から次へと,まるで蜂だな。しかし,この論文は,「ナビエ・ストークス方程式の解」の滑らかさについて直接言及はしていないのだろ。などの見解が述べられた。
これらの見解は,東京大学チームの迅速解析の見解に基づいていた。
だが,セルゲイは東京大学チームの報告書の末尾に記載されていた注意情報
「追加の論文で『観測誤差』について数学的な解決が行われた場合,ナビエ・ストークス方程式の解の解は滑らかではないことが証明される可能性がある。」
との記述に一抹の恐怖を感じていた。
もし,神も観測誤差なしに物体の運動を観測することが不可能であることが証明されたら,どうなる?神にとってもナビエ・ストークス方程式の解の解は滑らかではないことが証明されるのではないか?
敬虔な東方正教会の信者であるセルゲイにとっては不遜な考えではあるが,司令官としての理性が彼の内なる信仰心に問いかけてきた。
そして,内心の動揺を隠すように,机に両肘を立てて寄りかかり,両手を口元にして表情を隠しながら,「ナビエ・ストークス方程式の解に関する考察」の脅威判定を,東大チームの注意情報に基づいて,上から2番目のイエローとすると下命した。
それを聞いたメンバーは皆緊張した。
司令は,MIKAMI RenとKOUSAKA Anはニーチェ並みの脅威と判断したのかと。
そして,セルゲイは,各支部の責任者に対して検証チームの立ち上げについて指示を出した。ただし,論文の内容ではない。「如何なる者も観測誤差なしに物体の運動を観測することが不可能であることが証明される可能性について」である。
これを聞いた一同は目を見開いた。
そして,司令官の信仰心と理性との葛藤に思いをいたし,会議の出席者は一斉にセルゲイに敬礼した。
会議が終わり,ミシェルは,ブラインドを上げた後,セルゲイに紅茶を差し出しながら,「MIKAMI RenとKOUSAKA Anは,漣くんと司令のお嬢様ですよね」と確認した。
セルゲイは,天井を見ながら,「あぁ,おそらくは。本人たちに確認はしていないがね。」と手短に答えた。
そして,「シャーロット・スチュアートに,MIKAMI RenとKOUSAKA Anの論文の検証を依頼してくれ」と付け加えた。