第27幕・三者三様

文字数 1,081文字

 年が明けてから,セルゲイの心にはさざ波が立っていた。しかも,このさざ波は,日々大きなっていた。いまや,土用波のごとくである。

 一方,結菜と志緒里は,日に日に機嫌が良くなっていた。しかも,頻繁にメールと電話で連絡を取り合って,何やら悪巧み(セルゲイ視点)を進めている様子だった。
 それを見るたびに,セルゲイは更に落ち着きを失っていった。

 なぜだ?どうしてこうなった?きっかけは?と,セルゲイは,朝食を取りながら,日本海溝のように深く深く考えを巡らしていた。

 そんな彼の悩みなど知らないオイラーはリビングテーブルの下で,食後の休憩と言わんばかりに微睡始めていた。

 セルゲイのはす向かいの席に座って朝食を食べていた杏は,「ご馳走様でした」と手を合わせ,食器をキッチンに片づけてから,玄関のシューズボックスの上に置いていたリュックサックを肩に通して,元気よく,「行ってきまーす」と声を掛けて家を出て行った。

 その様子を見た結菜はうんうんと頷き,いそいそとスマートフォンを取り出して,志緒里に電話を掛けた。
 「今日もそっちに行ったわよ。よろしくね。」
 結菜からの電話にワンコールで出た志緒里は
 『OK,今日のお昼ご飯は杏ちゃんが好きな特製タルタルソースがけの鯵フライにするわね。』
 と答えた。
 それに対して結菜は「おぉ,私も食べに行こうかなぁ。」と応じたが,間髪入れずに志緒里は『ダメよ。二人の逢瀬の邪魔をしちゃ。』と結菜を制した。
 すると結菜は「そうよね。」とご機嫌に返事を返した。

 そんな二人のやり取りを傍らで聞きながら,セルゲイはさらに悩みを深めていった。

 大人達を翻弄しているこの事態は何なんだ!とセルゲイは内心叫んでいた。

 年が明けてからというもの,杏は,朝,漣の家に向かい,食事の時間以外,彼の部屋に入り浸る生活を今日・1月6日まで続けていたのだ。当然,帰宅は漣と一緒だ。
 ただ,昼食は志緒里と漣と3人で,夕食は大岡山で漣も含めた4人で夕飯を食べている。
 その時間は今までほとんど変わった様子はなかったのだ。
 これが,様々な憶測を呼んでいた。

 別々の高校に進学してから,以前よりも二人の行き来が減ったのだが,初詣を境に,この異常事態(セルゲイ視点)が続いているのだ。

 一体,二人は何をしているのか?

 大人達には,全く分からなかった。
 しかし,それが様々な想像を生み,苦悩と期待を生み出していたのだ。

 ちなみに伸治は多忙な仕事をこなしながらも,その心は平常運転だったことは言うまでもない。
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