第8幕・強者と弱者

文字数 677文字

 セルゲイは,休み時間にお店をあけてくれた大将にお礼を言ってから外に出た。
 ミシュルがタクシーを拾おうとしている。
 そんな彼女を見ながら,セルゲイはふと思った。ミシュルはイギリス国教会,大将はカソリック,USA支部のマイケルはプロテスタント,そして自分は東方正教会,司令部のスタッフにはイランの原始キリスト教徒もいる。そんな我々が共通の敵・ニーチェに対抗するために,連合軍に集結している。数世紀に渡る対立を乗り越えて。ニーチェは,我等にかりそめとは言え,我々に和解をもたらしたのだ。皮肉なものだと。
 セルゲイは,弱気なことを考えている自分を鼻で笑って,気を取り直す。早く司令部に戻って,今後の対策を立てようと。

 そんな時に,いきなり後頭部を扇子で叩かれた。しかも,その扇子は佐々木小次郎の燕返しのごとく鋭いステップを踏んで,隣に立っていた漣の後頭部も叩いていた。

 「成敗!」

 よろめいた二人の横では,突然の事態に驚愕しているミシュルがいた。そして,杏に置き去りにされた莉子は遠くでアングリとしていた。

 後頭部を叩かれたセルゲイと漣は,後頭部に手を当てながら振り向いて,声をそろえていった。

 「杏,いきなり何をする。」

 その杏は,左手を腰に当て,二人の後頭部を叩いた扇子を二人に向け,夜叉のごとく怒気を込めて,セルゲイと漣を睨みつけていた。セルゲイ達は,ここで目を逸らしたら負けだと思いながらも,本能にまで刻み付けられた習性からか,つい,目を逸らしてしまった。あぁ,これが小動物の悲哀か。そして,杏による宗教裁判が始まった。
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