第183話 日常と机上

文字数 1,391文字

 しかしそんな口泡飛ばして、「学校に行かなくてもいい」と主張することはなかったな… 自分。
「書く」ようになってから… 大学の時だ、それらしく何か云い始めたのは。
 フランス語の講師、一風変わった先生だった、そのK先生が「かめ君、不登校体験書いてよ」みたいに… 「かまねこ通信」という通信誌、長野で障害者と呼ばれる人達と味噌を作ったりリンゴ農園をやっていたり、そういう活動をしていた仲間と一緒に発行していた通信誌に。
 自分の体験話を書いたのはあれが初めてだった。
 三十歳位の時に、無農薬八百屋を営む、映画監督でもあるKさん…(知り合いにはKさんが多いなぁ)から同じようなことを言われて本格的に書き始めたけれど、初めて体験話を書いたのは大学生の時だった。
 でもあの文章… ただ自分の体験を書いただけで、何も主張はしていなかったと思う。してたのかな。してたんだろうな、自分がその文の中で云いたかったこととして、最後の方で云っていた気がする。
 そう、文章。オレは何が云いたかったのか、というところで。まとめるような形で書いていたと思う。
 文章って、云いたいことを書かないと… 結局何も書いていない、というふうになりそうだった。

 新聞の投書、あれも「登園拒否する子ども」について、親御さんが書いていたことに同意する意味を込めて書いたものだった。自分の経験を踏まえて、文末には「幼稚園や学校に行かなくてもいいと思います」的なことを書いたと思う。
 そう、文章…
 一つのことを云ったら、そこから二、三、四と付随するものが出てくる。「一」だけでないんだ、「一」が問題なのだけど、「一」を云えば二、三、四も含まれてくる… 一のこと、一つのことに。
 その二、三、四も含んで、一のことに繋げようとすると… 繋がっているのだ、すでにそれは繋がっているのだが、… 文章にすると、また日常の会話でもそうなろうが、何が云いたいのか分からなくなってしまう。「あれもこれも」では何が云いたいのか相手によく伝わらず、結局「あれかこれか」になってしまう…

 地球上ではあたかも人間が至上の生物として君臨していそうだ。が、その人間にしたところで、自然には敵わないのだ。地震、豪雨、山火事、猛暑…
 だがそんな「自然」を言い出したら、とりとめもなくなって物語はできない… 宇宙のこと、星の自転、にまで話は繋がっていくだろう… それはそれで立派な、確かな物語だが。
 とにかく初めて本気で(自分のことなのだから本気にならざるをえない)文章を書いた時、読み手に伝わるように、そして自分は何が云いたかったのか、ということに重きを置かざるをえない状況に初めて直面したと思う。書くという行為は、そういう状況になっていく、ということを知った、というべきか。何しろ初めてだったから、「知った」といえるのも、今だからいえることなのだけど。

 何が云いたかったんだっけ? 前回「不登校は病気です」と断言する医師の記事にどうしようもない怒りを覚えて…
「学校は行かなければならない」… 「行くべき」、それが当然、というのがあって…
 いや、そんな一本道ではない、それは違う、というのがあって。学校に行かない子は非国民、戦時中の軍隊か、みたいな文章も書いて…
 要するに、行くことだけがいいのではない、行かないことも、あっていいのだ、ということを云いたかったのだ。
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