第100話 「北」

文字数 808文字

 セリーヌの時代の戦争、その戦時下で彼が延々と主張し続けたことを現代の「北」に置き換えれば…
 ウクライナに住む作家が「ロシア側につけ、ロシアと敵対するな、同盟せよ!」と叫び続けるようなものだ… そして「国賊作家」「反政府主義者」と呼ばれ、住む家を追われ、亡命することになって…「亡命三部作」を書くことになったろうか。時代は繰り返す、戦争は繰り返す、《人間なんざ五億年前から何も変わっちゃいない!》
 脳ミソをからっぽにされた人間、《狡猾極まる

によって》、おそらくセリーヌは宗教についても言及したかったろうが、それを書いたらほんとに消されてたろう… 計画された戦争、世界を操る仕組み、小説を書くどころでなく、ほんとうのことを読者に伝えようとして逆に国家反逆の刑を喰らい、極寒の監獄行き!
 《最後に勝つのは賤民だ》ニーチェの言葉を借りてセリーヌ、出獄後には読者に対しても攻撃を始める。俺があんなに言ったのに! お前らは俺を犯罪人扱いだ! 家の中の物はぜんぶかっぱわれた!バイクも壊され! ベッドも持ってかれた! 私の傑作の原稿も! 何もかも!
 真実を伝えようとしたのに! お前らを守ろうとしたばっかりに! …

 セリーヌの時代、死刑もザラにあった… やれ死刑、そら死刑! … 死刑を執行して、そいつが《戦犯》であったにせよ死刑にして、それでどうなった?
 《先進国》で死刑が禁止されたのは、その不毛さからではなかったか? 誰を死刑にしたとて…
「人間を愛しすぎたセリーヌ」(椎名麟三)、でも笑えるところもある、酷い戦時下を描きながら、読者を笑わす… あの笑いはどこから来るのか?
 猫のベベール、妻のリリ、友達のラ・ヴィーグとの四人の逃避行。ベルリンに落とされる爆弾、絶え間ないドカン、ドカン。「北」の下巻、もうすぐ読了、あとは大江が「静かな生活」でやたら書いていたセリーヌについて、その作品「リゴドン」を。
「苦境」も…。
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