第95話 「大ミサ曲」は

文字数 1,638文字

 モーツァルトが珍しく自発的に書いた曲だとか。
 いろんな人の依頼を受けて作った曲がほとんどなのに、この曲はそうでない。(たぶんレクイエムも自分の死の予感を受けて、自分のために書いていたような…)
 とても丁寧に感じられるのは、そのせいか?
 音楽を「わかる」、理解力のある、「聴く耳を持った人」から頼まれたら、モーツァルトは喜々として作曲したという。
 面白い話だ。依頼者によって、請け負う業務、モーツァルトの作曲への姿勢が変わる。だから曲も変わる。

 こんな文章を書いている身にも、たまにコメントを頂くことがある。その内容がおそろしくレヴェルの高い、こっちが恐れ入るような、とんでもない評論家が書くような適格なコメントであった場合、自分がそれから書く文章内容にも少なからぬ影響が及ぶ。
 褒め言葉で埋まっていれば嬉しく、おバカな脳はそれを記憶し、また褒められたい、その快感を味わいたいと、せっせとカーソルも軽やかに打ち続ける。これがモチベーションというものだとしたら、なんという軽さだろう… そして実際軽いのだ、モチベなんてもの、ココロ的なものは。
「成功体験は呪いになる」という。どんな小っちゃな「成功」でも、それがまわりから与えられた快感であれば、またそれをまわりへ求めるからだ。ランキングで1位になるとか、PVが何万になったとか。
 自分もそうなったことがある… でもそれはほんとにちっちゃなこと、そんなたいしたことではないと正直思った。そりゃ嬉しい、感謝は忘れようもない! でももっと大きく見て、とんちんかんに見れば、それでべつに世界が平和になるわけでもない、戦争がなくなるわけでもない。

 一昨日来てきれた友達にも話した… 寂聴さん、こう書けば売れるってわかったら、もう書くのつまらなくなっちゃったんだって。ああ、この人、ホンモノだと思ったよ…
 一生、人の評価ばかり気にして、死んでく人もいるんだろう… ボクを認めて! アタシのを見て! そっからぜんぶ、創作の姿勢が始まってるとしたら、みんな同じようなもんばっかりになる… いかに「数」を集めるか! くだらんね、つまらんね… YouTuberはバズるためなら犯罪も厭わない… モノを書く人の投稿なら、はじめのうちはそれも立派なモチベになるだろう、でもいつまでもそんなんなままじゃ、続くもんも続かない… それにせっかくの自己表現の場が、自己承認願望欲にまみれた場になっちまう… イイことばかり言って票を集めようとする、汚れた政治家どもの心根… アイドルの総選挙… 化粧して顔を作って… 人間のことなんか考えちゃいない… ブラヴォー、ブラヴォーだ!
 何が言いたかったんだっけ… 最近はいつもこれだ! こんなふうにモーロクしないうちに、しっかりしたもんを書いとくれ、若い衆! おっと、よけいなお世話だった… 冒頭を読み返して、思い出した… モーツァルトのことだった!
 あんな、とんでもないモーツァルトでさえ、人、他者を見て、自身の書く曲が変わるということだった。

 仕事だったこともあるだろう、その人の、依頼者の気に入るように書く… そしてつらい時ほど長調の曲を書いた… 長調の曲ばっかりだ、モーツァルトは。
 20番、24番のピアノコンチェルト… シンフォニーなら25番と40番だけ! ほんとはモーツァルト、ああいうのを書きたかったのかな? 自発的に書いた「大ミサ曲」は長調だ。心底楽しく書いたのかな。妻のために書いた説もある。
 何にしても、もうモーツァルトは喋れない、研究者が証拠を見つけて学説を新たに発表するだけだ。これは実はお父さんのレオポルトの作曲でした、あれは偽作でした、あれはどうでしたこうでした…
 どうしたところで、いい曲はいいんだ、それだけだ。誰が作ろうが、いいものはいい! 《私》なんてものはどうでもいい…と私は思う… 人間に向かって…
 ああ、いたずらに長文を書くのはやめよう… 読者(がいるとすれば)の貴重な時間を!
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