第60話 戦時下にて(3)

文字数 614文字

 人は正義に立った時、最も残虐になれる…
 正当化するに持って来いのがいる。
 がいるのを喜びとし、待ってましたとばかり、襲いかかる…
「わたしは正しい」彼を立たせるのは、そんな観念しかない。
「何が悪い? わたしは正義だ、わたし正しい」
 鏡を突きつけてやれ! 正義のおまえの顔は、こんなに醜悪だ、俗物だ…
 端正な顔立ちだ? 邪心が際立ってるよ、より一層!
 根っからのひねくれ者、腐った根性、(カビ)を増殖させて喜ぶド変態野郎。
 人を利用することしか考えず、シコシコに余念のないセンズリ野郎。
 戦争なんて権力者のマスターベーションだ、権力下におかれた人間どもは夜毎のおかず(・・・)にすぎない… 今日は何人ヤッつけた? 足りないな…

 二極を越えるもの、対立するもの、YESとNOを越えるもの、それを見い出さない限り、戦争はなくならない。
 それは宗教でもなく、カリスマの存在でもなく、バラバラなヒト族を一体化させるものでもない。バラバラなままでいいんだ、どうせ違うんだから。違うままで、よし! 人間はもはやひとつになって「戦争反対!」なんて叫べない。そういう時代は過ぎたんだ。
 あとはゆっくり、ひとりの中に潜り込んで… ひとり自分の中に潜り込んで… 自己でも他者でもないことに気づくまで… ただ在る、在るがままに在る… そこから万物を眺め、接することができるまで… ゆっくりゆっくり、自然、(みずか)(しか)り、そのまま流れ、辿り着くまで… ひとりひとり、……
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