第17話 (前話の補足)

文字数 947文字

 現代の「文学」と呼ばれるジャンル… なんとか賞、かんとか賞、毎年! あるが、またベストセラーとかいうもの、いまだにあるのかどうか分からないが、そういうものに選ばれた本に、あまり興味がない。
 何度か読んだものは、実に薄っぺらかった。面白くないことはない、ただ、あ、そう、という程度の読後感しか残らない。ごまかし、わかり易さ、「やさしさ」、「せつなさ」、ばかばかしいほど軽薄だった。こういうのが読まれる、というのはよく分かる。ぼくに確認できたのは、それだけだった。

 自動車工場で仲良くなった友達が、「あんな賞なんて、商売、いかに注目を集めるかでやってるんでしょ」と言っていたが、あの年は80歳?とにかくご高齢の方と、かなり若い方の二人が受賞した年だった。特にモノなんて書いていない彼が、有名な文学賞に、そんな疑いの目をもっていたことにびっくりした。

 また、ある会社の会長?みたいな女性とよく飲んでいた頃… といっても飲んでいたのはぼくだけで、彼女は酒はやらなかったが…「今の文芸雑誌は全然読みませんね。昔は(大江が元気だった頃…1970年代?)よく読んでいたけど」。うん、ぼくもそうですよ、と大いにうなずいた。
 ぼくの父は自宅で校正の仕事をしていたが、その遺された日記に「今の本は軽い。軽すぎる」と嘆くように書かれているのを見た。まったく、何もない、ただ肌をなめて通りすぎる、一瞬の風のような本ばかりなんだ。

 16話で「本は人を選ぶ」(誤字脱字が二ヵ所見つかったので直した)を書いて、ああ言い忘れたことがあった── それは、べつに、不朽の名作とかいわれるもの、生きてるうちに一度は読まねばならぬ本!といわれるような本が、こっちに何も響かなくたっていいのだ、何も、名作=素晴らしい本、なんて法則はないのだ、合う、合わない、それだけだ── ということだった。

 しかし本を読む、何か書くなんて、不健康極まりない行為だ! 眼に悪いし、身体に良いことはない! 精神には大いに栄養を与えるだろう、それが身体を立たせるものなら、読書もすばらしい。自己を律するものであるなら、自分の足を鍛えるものであるならば!
 大江が最後だった、ぼくが生きている作家で読みたかった本は。心から読みたいと思った本は。あとは、もう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み