第175話

文字数 1,252文字

「漫画家になりたい」とか「作家になりたい」とか。
 確かにそんなことを、かなり引っ掛かりながら言っていたこともあった!
 前者は中学卒業時の三者面談、後者は正社員を辞めてどうするかというような時だ…
 あの15の時、卒業してどうするんだと担任から訊かれた時、「漫画家になりたいです」と。
 コネはあるのかと訊かれた、コネの意味が分からなかった。
 なぜ「漫画家になりたいです」と言ったのか? 全然、本気でそんなこと考えていなかった… と言えばウソになるか? ただ漫画を書いているのが好きだった、9歳の時から… 2、3年間、家で漫画を読んで書いてばかりいた、家族旅行先でも漫画を書いていた、ケント紙、製図用インク、Gペン、スプーンペン、ストーリーらしきものも考えていたのか… ギャグ漫画は15枚、ストーリー漫画は30枚… こまかい作業… スクリーントーンを手書きして… 主人公、脇役、家、フキダシ、会話… とにかく書くのが好きだった。

 あの三者面談、進路相談だったか、「漫画家になりたいです」。それは2、3年間のあいだにしていたことで、漫画を書くことが唯一の将来に繋がる具体、自分のしていたことだったので。他に、何も具体的なことはしていなかったので! 「漫画家になりたいです」、そう答えるのが自分のしてきたことを言い表わす、担任教師に言える言葉だった…
 しかし心の内は! セブンイレブンの店長とコネがあった! そこでバイトをする、そこで働く! そう決めていたんだ。ガキはガキなりに知っていたんだ、漫画家より! セブンイレブンでバイトをする! それをするのが自分なんだと。でもそれは担任に言えなかった、言わなかった。いい先生だったと思う、嫌いじゃなかった、今もよく思い出す。

 30? 子どももいて、せっかくイイ企業に勤め… 伴侶もいて、会社に行きたくなくなった。これからどうするのか? 親は心配、…私も親だったのだが… 仕方ない、他に言いようもない、「モノ書いて食って行けたら」… それらしいホノメカシをもって言っていた! 確かに書くのは好きだった、実際本を出してるしりあいとやりとりして… 漫画を書いていた時も、プロの人に見てもらった… いい人だった、人格者だった、徳のある… 今もよく思い出す、あの新聞のイラストを描いていた… 本を出してた人は友達のお父さんだ、すごい人徳者だった、よく思い出す、あのイラストレーターもあのノンフィクションライターも、誰も悪口を言う人などいるわけがなかった!
 しかし、しかし! 漫画家になりたいだの、作家になりたいだの、私は、そんなもの、そんなこと、どうでもよかった。と言っては乱暴か? いや本当だ、その時そう言わなければならなかった、卒業してどうする、会社辞めてどうする… 言う必要があった!
 何も言いたくなんかなかった、本当の本当に! ただ好きだっただけなんだ、10歳の頃は漫画を、30の頃は文章を書くことが… 漫画家だの、作家だの! なりたい、なんてもんじゃなかったんだよ。
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